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医師と相談して自分にあった治療法を

 喉頭がんや下咽頭がんが進行して見つかった場合は、喉頭を全摘せざるを得なくなる。術後は以前のように声が出せなくなるだけでなく、頸の表面に呼吸をするための穴が開いた状態になる。これを「気管孔」と呼ぶ。ここを塞ぐと息ができなくなるため、気管孔は一生開いたままだ。

 また、鼻や口から息を吸うことができなくなるため、鼻をかんだり匂いを嗅いだりするのが難しくなる。患者にとってつらい状態になるのは否めない。

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 しかし、喉頭全摘も悪い面ばかりでない。食べ物の通り道と呼吸の通り道が別々になるので、高齢者などでは誤嚥性肺炎になりにくいのだ。大阪府立成人病センターのデータによると、進行した喉頭がん患者では、喉頭を残した人より喉頭を摘出した人のほうが、4年長生きしていた。

 また、以前と全く同じようには話せなくなるが、喉に振動音を伝える専用の補声器を使ったり、げっぷの要領で音を出す食道発声法などを習得すれば、声による意思疎通も可能になる。それに、気管孔に特殊なチューブを入れ、食道から空気を出せるようにすることで声を出す「気管食道シャント術」も保険適用となり、選択肢の一つとなっている。

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 このように、化学放射線療法と喉頭全摘には、それぞれメリットとデメリットがある。その点を十分理解したうえで、自分自身の価値観や年齢、条件なども加味して、最後は医師と相談して、自分にあった治療法を選んでほしい。

 頭頸部がんでは、欠損した部分を補う再建手術も重要だ。たとえば、顔面の骨の空洞の中にがんができる上顎洞がんになった場合、眼の周りの骨や眼球、上顎を摘出せざるを得ないことがある。こうした場合には、脚の骨の一部を移植するなどして、顔面を再建する手術が行われる。

 また舌がんでは、半分までなら切除してもリハビリを行えば、日常生活に支障のない程度に話し、食べることができるようになるという。しかし、それ以上の範囲を切除した場合は、腹部の皮や組織などを移植して、機能障害ができるだけ軽く済むようにする必要が出てくる。

 このような再建手術を行うためには、顕微鏡を使って細かい血管や神経を縫い合わせる技術を持つ形成外科医などの協力が不可欠だ。また、話し方や飲み込みのリハビリなどにも、言語聴覚士(ST)や理学療法士(PT)といった専門職スタッフの協力が欠かせない。

 さらには、放射線の影響で唾液が出にくくなった場合は、虫歯になりやすくなるので、定期的に治療したり、セルフケアの仕方を覚えたりする必要も出てくる。そのために、歯科医(口腔外科医など)や歯科衛生士などの役割も重要となる。

 このように、頭頸部がんの治療を行うには、頭頸部がん専門医だけでなく、放射線科医、腫瘍内科医、形成外科医、口腔外科医、歯科衛生士、言語聴覚士、理学療法士等々、様々な専門職の連携が不可欠だ。したがって、頭頸部がんの治療施設を選ぶ場合には、手術実績が豊富かどうかだけでなく、チーム医療ができているかどうかも見極めてほしい。

出典:文春ムック「有力医師が推薦する がん手術の名医107人」(2016年8月18日発売)