みんな天才なんですよ
有働 草彅さんが主演を務める映画『碁盤斬り』が、5月17日から公開されますね。演じるのは、身に覚えのない罪を着せられた上に妻も失い、故郷の彦根藩を追われた浪人の柳田格之進。彼は、清原果耶さん演じる娘のお絹と2人で、江戸の貧乏長屋で暮らしています。実直な人柄の格之進は、ある切っ掛けで冤罪事件の真相を知らされ、命を懸けた仇討ちの旅に出かけていきます。
映画を拝見して、草彅さんの敵に対する鬼気迫る表情に圧倒される一方で、作品の重要な要素でもある碁を打つ場面の静かな佇まいにも目を奪われました。お名前の出た、つかさんをはじめ先輩方が草彅さんを「天才」と評するのも納得です。
草彅 つかさんは適当に言っているだけなんですよ(笑)。そう言った方が楽。つかさんは役者をその気にさせるために誰にでもそう言っているんです。ただ、僕から言わせたら、この世界で活躍している人は皆が天才だと思います。
有働 と、言いますと?
草彅 役者さんにはそれぞれ個性があり、みんな天才だと思わせる才能がある。『碁盤斬り』だと、清原さんもそうだったし、中川大志君もそう。有働さんも天才ですよ。
有働 いやいやいや。
草彅 生放送であれだけ臨機応変に対応できるのは凄い。僕には出来ないから。それぞれ才能のバリエーションが違うだけなんです。
有働 ただ、役者の皆さんは他の方と比較されたり、評価されることもある仕事じゃないですか。
草彅 20代の頃はあったかもしれません。今も、他人がまったく気にならないと言ったら嘘になりますが、過去の自分と比べて成長しているかどうかの方が大事ですね。自分が昔よりも劣っていることの方が、もっと悔しいです。
有働 それはいつ頃から感じるようになりましたか?
草彅 35歳ぐらいですかね。
有働 何か切っ掛けがあったんですか?
草彅 ちょうど酔っぱらってお騒がせしてしまった頃ですかね。
有働 なるほど。ありましたねえ(笑)。
草彅 大失敗をしたことで、色々と学び始めました。どこか調子に乗っていたところもあったと思います。環境も良かったし、何不自由なく仕事をしていた。アイドルとして20代を走り抜けて、ちょうど次のステージに上がる頃だったこともあるのでしょうね。以来、自分と向き合って生きるようになりました。
有働 自分を直視するのは、辛い作業ではないですか?
草彅 いや、他人と比べるより、自分と比べる方が楽ですよ。たとえば僕は10年ほど前からギターを弾くのが好きになりましたが、なかなか上達しなかったんです。前はお客さんの前で弾いて、逆に「頑張って」と応援されるほどでした。でもある時、泉谷しげるさんに「お前がファンに励まされてどうする。みんな金を払ってきているんだ!」と𠮟られて、その言葉が響いた。
有働 まっすぐに受け止めて。
草彅 それで自分の弾いているところを録画し始めたんです。そうすると「え? 俺ってこんな下手なの?」って思う。でも自分のダメなところがわかると、少しずつ上達していけた。「過去の自分に勝っているな」と思うことが出来るのは、とても楽しいですよ。