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 さきほどまでざわついていた教室が、いつの間にか静まりかえっていた。

 大谷さんの指摘は重い。彼らは中学受験のいわば“勝ち組”だ。しかし彼らには彼らの不安がある。親やまわりの大人が自分を認めてくれるのは、自分が自分だからなのか、自分が有名進学校の生徒だからなのか、わからなくなることがある。

駒場東邦では中学3年の国語の授業で性やジェンダーをテーマにした作品を扱っていた

 “受験エリート”の街道を行く限り、その不安からは逃れられない。恋人ができたとしても、同じ不安を抱くことになる。“いい学校”に通っているから、“いい会社”に勤めているから……。そんなところに自分の価値を求めなくていい。中学校生活の最後に、そんなメッセージが込められた授業であった。

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東大のしつこい臭いを中和するヒントが男子校に?

 男子進学校各校は、競争社会や権威の象徴ともいえる東大をはじめとする有名大学への進学者数に支えられながら、半面で、いわゆる「有害な男性性」を中和する教育を行っていた。

 そもそも東大は明治時代の初期に、全国津々浦々から最強の男子を集結させるためにつくられた。全国の男臭さが極限まで濃縮された場所だった。東大こそ、究極の男子校だったのである。

 そのしつこい臭いを中和するヒントは意外にも、男子校の先駆的な性教育やジェンダー教育のなかに見つかるのかもしれない。

男子校の性教育2.0 (中公新書ラクレ 817)

おおたとしまさ

中央公論新社

2024年6月7日 発売