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 拙著を書くために訪れた男子校の性教育の授業のほとんどで、性的同意と不同意性交等罪について触れられていた。セックスを、紅茶を飲むことに例えた動画を見るのが定番であったが、専門家の口からも上記のような問いへの明確な答えは聞かれない。

 そんな不安のなか、「女に対する妄想と偏見をいっぱい溜め込んでる」と言われようと、「諸悪の根源」と言われようと、現場の教員たちは、多感な時期を必死に生きる男子生徒たちに寄り添うスタンスで性やジェンダーについて教えていた。

「問題です。女性から『妊娠した』とLINEが来たらどうする?」

 毎年東大に50人前後の卒業生を送り出す東京都の男子進学校「海城」では、家庭科の授業で「パートナーシップ」について扱う。妊娠には男性にも当然責任がともなうことを学んだうえで、この日は「性と生殖に関する健康と権利(SRHR)」にもとづいて、産む・産まないを選択する権利は女性にあることを学んだ。

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海城中学3年生は家庭科の授業でパートナーシップについて学ぶ

「そこで問題です。女性から『妊娠した』とLINEが来たらどうする?」

 家庭科教員の龍崎翼さんが問いかける。いわゆる「予期せぬ妊娠」を想定している。

「『産む。迷惑かけないから。認知しなくていい。ひとりで育てるから』と言われたら、女性の決断を男性は止められません。『迷惑かけない』って一筆書いてもらっても、裁判になったら子どもの権利の観点から、無効になります」

 教室のところどころで「えっ!?」というリアクションがある。

「別のひとと結婚して家族ができて幸せに暮らしているときに突然裁判所から呼び出しがかかるかもしれません。逃げても強制認知の判決は出ます。相手に対する責任ではなくて、子どもに対する責任から逃れられないしくみになっています。……それを理解することが、みなさん自身の身を守ることです」

 普段はガヤガヤ私語も多い教室が、このときはしーんとしていた。

「なんせ今日は男性視点で話しましたので、女性からは『えっ?』って思われてしまう言い回しもあったかもしれませんが、女の子が何と言っても、自分の意思で避妊するようにしてください」

 避妊について教える場合、予期せぬ妊娠・出産がどれほど女性の人生を狂わせるか、人工妊娠中絶手術がどれだけ女性の心身に負担を与えるかなどを訴えることが多い。海城でも、もちろんそれは教える。しかし龍崎さん自身は女性でありながら、あえて男性の側に立ったロジックで、避妊の重要性を説いた。

 まだ恋をしたこともない、自分が何者かもわからない中学生には、そのほうが自分のこととして真剣に聞いてもらえることが、これまでの経験からわかってきたからだ。男子校ならではの工夫だといえる。結果的に女性を守ることにもつながる。