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「どんな時でも思い切り勉強していい」「作品の世界に入ってみて」と伝えたい。戦争のさなかで文学を読むということ。

「どんな時でも思い切り勉強していい」「作品の世界に入ってみて」と伝えたい。戦争のさなかで文学を読むということ。

『ロシア文学の教室』著者・奈倉有里さんインタビュー

source : 文春新書

genre : エンタメ, 教育, 読書, 国際, ロシア

note

戦争の時代に愛を考える

――また、この作品のサブテーマとして「愛」ということがありますよね。『向こう岸から』も流刑地とモスクワで手紙を交わし合う崇高な愛が書かれ、『白夜』には章タイトルにあるように「孤独な心のひらきかた」とでもいう愛の形があり、『復活』で描かれるような生き方や人生が問い直されるようなスケールの大きな愛もありますね。

奈倉 戦争の存在が非常に大きくなっていくなかでどう書こうかと考えて思い出したのが、ロマン・ロランの『ピエールとリュース』という小説でした。第一次世界大戦の時代が描かれた作品ですが、戦争が長引いていく時代にあって、恋愛や愛というものが大事なものになる瞬間を捉えているんです。

 私自身が若い頃に非常に好きだった作家のうちの1人はトルストイで、だからこそロシア文学を研究しているんですが、もう一人がロマン・ロランです。この本の主人公の湯浦葵(ゆうら・あおい)がよくロマン・ロランのことを語るのは私自身が投影されているところもあるかもしれません。

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――最後に、本の表紙に使われている作品が大変印象的です。奈倉さんご自身が選ばれた1枚ですが、どんな作品でしょうか。

奈倉 少年が何か教室に入りたそうにしている。でもよく見ると、彼の手はごつごつして大人のようで、苦労している様子がわかります。着ている服もボロボロです。ニコライ・ボグダノフ=ベリスキーという画家による1897年の作品ですが、非常に貧しい出身で学ぶことに強く憧れていた自身の姿を投影しているとも言われています。少年の後ろ姿から教室の中の温かい雰囲気を羨ましく思う様子、勉強したいと思う気持ちが切実なものとして感じられてすごく好きなんですね。

 たまにロシア文学とはどういうものかとか、19世紀ロシア文学にはどんな特徴があるのかという質問をされることがあって、もちろん何かある特徴を言うことは可能なんですけれども、どうも包括的にまとめることは難しいように思います。それよりも、この表紙の絵のように「ぜひ作品の世界に入ってみてください」とお伝えしたい。枚下先生も講義の最後の方になるとちょっと名残惜しそうなんですね。だからあえて閉じてはしまわないような書き方をしたつもりです。この「ロシア文学の教室」に入ってみてください、そして思い切ってその先にあるそれぞれの作品の世界に入っていただけたら嬉しいです。

<著者プロフィール>
奈倉有里(なぐら・ゆり)
1982年東京都生まれ。ロシア文学研究者、翻訳者。ロシア国立ゴーリキー文学大学を日本人として初めて卒業。著書『夕暮れに夜明けの歌を』(イースト・プレス)で第32回紫式部文学賞受賞、『アレクサンドル・ブローク 詩学と生涯』(未知谷)などで第44回サントリー学芸賞受賞。他の著書に『ことばの白地図を歩く』(創元社)。訳書に『亜鉛の少年たち』(スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ著、岩波書店、日本翻訳家協会賞・翻訳特別賞受賞)『赤い十字』(サーシャ・フィリペンコ著、集英社)ほか多数。

<イベント情報>
【6/30 (日)】奈倉有里『ロシア文学の教室』刊行記念イベント
 1日限りのリアル「ロシア文学の教室」!
https://aoyamabc.jp/collections/event/products/nagura-0630

ロシア文学の教室 (文春新書 1457)

ロシア文学の教室 (文春新書 1457)

奈倉 有里

文藝春秋

2024年5月17日 発売

「どんな時でも思い切り勉強していい」「作品の世界に入ってみて」と伝えたい。戦争のさなかで文学を読むということ。

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