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アラカルトのメニューも豊富

 食事メニューは数量限定で、早めに手配しないと売り切れてしまう。しかし食事の予約がなくても安心してほしい。車内にはアラカルトのメニューも豊富だ。地酒、地ビール、カクテル、温かいコーヒー、おつまみやケーキなど食べ物もたくさんある。都会のカフェに匹敵する品揃えだ。予約した食事を楽しむ人を見て、うらやむ暇がない。これもいいシステムだ。

2号車のカウンターで温かい飲み物や食事メニューが整えられる

 松山駅で発車を待つ間、物珍しさに列車を覗き込む人に、アテンダントさんがさりげなく乗車を薦めている。普通列車や特急列車で移動するつもりのお客様が、説明を聞いて「それならこっちに」と乗り込んでいらっしゃる。アラカルトメニューがあるから、空席にお客様をお招きできる。これが高い乗車率を維持する理由かもしれない。

「もっとも海に近い駅」として、青春18きっぷのポスターなどにも登場した下灘駅。「伊予灘ものがたり」も停車する

沿線の人々もこちらに手を振ってくれる

 元気はつらつとしたアテンダントさんの心配りも楽しい。車窓の説明、給仕、記念写真のシャッターお手伝い、記念品の販売など、とても忙しいと思うけれども、笑顔を絶やさず、お客様に語りかける。お客様との会話を楽しんでいるようで、お客様も楽しくなって笑顔になる。話しかけるたびに嬉しくなり、心が温まる。

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 まだ若いのに、いったい、どんな接客教育を受けたらこんなおもてなしができるのだろう。いや、違うな。教育やマニュアルなんて野暮な仕組みではない。彼女たちの自然な振る舞いは、もともとの気立ての良さだ。年配夫婦の客の、アテンダントさんへの優しいまなざし。「こんな娘さんが息子の嫁になってくれたらなあ」なんて思っていそうだ。

アテンダントさんは笑顔が絶えない

 笑顔は車内に留まらない。列車が走るたび、沿線の人々もこちらに手を振ってくれている。鉄道のライバルのはずのガソリンスタンドで、店員さんが総出で歓迎してくれる。そういえば、あのガソリンスタンドのキャッチフレーズは「ココロも満タンに」だったっけ。

 子どもからお年寄りまで、被り物のオジサンや、ワンちゃんニャンちゃんも出迎えてくれた。車窓から笑顔が届き、こちらも返していく。一瞬の出会い。気持ちが通じたこの嬉しい感覚に、なにか名前をつけてあげたい。気軽に乗れて、気持ちが晴れる。ささくれだった心をほぐしたくなったら、松山に行こう。もういちど伊予灘ものがたりに乗ろう。

この心づかいが嬉しい

写真=杉山秀樹/文藝春秋