週末と休日のJR松山駅には、特別な時間が4回もある。観光列車「伊予灘ものがたり」の出発が2回、到着が2回。灰色のプラットホームにカーペットが敷かれて、2両編成の気動車がやってくる。乗降ドアには明るい笑顔のアテンダントが立つ。出発時には出迎え、到着時は見送り。出発する客の表情は期待に満ち、到着した乗客も満足げだ。
おひとり様からグループ旅行まで
全国に「観光列車」と呼ばれる列車が120以上もある。そのうち、アテンダントが乗務し、食事や喫茶などを提供する列車は80ほど。そのなかで、2014年7月にデビューした「伊予灘ものがたり」は突出した成功例といえる。
2018年4月15日に乗客数8万人を達成した。469日間、1日4本の運行で1876便。1列車あたり42.6人が乗った計算だ。これは定期便だけの数字で、旅行会社主催の団体旅行や、貸し切り運行は含まれていない。実際にはもっとたくさんの人が乗っている。
ゆったりとした客室の定員は2両合わせて50人だから、8万人から逆算すると、定期便の平均乗車率は85.2%。これだけでも高い数字だ。3人グループが4人掛け席を利用した場合、残り1席は売りにくいから、実際にはほぼ満席と言えるだろう。
座席は4人向かい合わせテーブル、2人向かい合わせテーブル、カウンターテーブル席がある。カウンター席もゆったりした配置で、カップルでも、おひとり様でも、気兼ねなく過ごせる。個人からグループまで対応する座席配置も人気の理由と言えそうだ。
地産地消の食材をふんだんに使った贅沢な食事
人気の理由は他にもいくつかある。たとえば、手の届きやすい料金だ。座席はすべてグリーン車指定席の扱いで、全国のみどりの窓口で1カ月前から購入できる。
4本のうち2本は松山~八幡浜間を運行し、片道大人ひとり2260円。所要時間は2時間20分ほど。他の2本はちょっと距離が短く、松山~伊予大洲間で、片道大人ひとり1930円。所要時間は2時間程度。
3泊4日で数十万円以上という豪華クルーズトレインに比べれば、所要時間も料金も手軽だ。それでいて、伊予灘の青い海と水平線、肱川に沿ってゆったりと動いていく雄大な山並みを眺められる。この車窓は一級品だ。心のアルバムにしっかり残る。
指定席を予約するとき、オプションで特別な食事メニューも購入できる。4本の列車の時間帯に合わせて異なり、朝食、昼食、アフタヌーンティーセットがある。料金は2500円~4500円程度。地産地消の食材をふんだんに使い、一流の料理人が監修している。駅弁をつつく旅も楽しいけれど、列車の中で、ちゃんとした食器に盛られた料理と、温かい汁物をいただける。これは嬉しい。美しい景色を眺めて、日常から飛び抜けたひとときを過ごすための、ちょっとだけ贅沢なメニューである。