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 それにしても、今回はどうして『異能機関』が選ばれたのだろう? 式の後で、森下さんに少しだけ舞台裏を教えてもらった。

「選考過程をご説明すると、まず、各出版社から部門ごとに自社作品を推薦してもらいます。そして、Koboでのダウンロード数と、独自のロジックを合わせて、楽天社内の選考委員会を経て各部門10作ずつの入賞作品を大枠で決めました。

 単純なトータルダウンロード数だと販売期間で有利不利が生じてしまうので、初月、3ヶ月、半年といった時点ごとの数字でインパクトを加点するなど、細かい調整も行なっています。

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 入賞作品に対して、改めて各出版社と取次に投票してもらいます。その数字をもとに選考委員会の票も加え、最後はその年にふさわしいかどうかといった意味づけも加味して、委員長の高橋が総合的に大賞を確定しました。

 キングの『異能機関』については、得票率がトップでしたし、デビュー50周年記念刊行作品とあって、かなり早く決定しました。忖度なしです(笑)」

 非常に気を遣った選考過程であることがよくわかった。ちなみに複数回受賞もありにしている(実際、写真集部門の似鳥沙也加さんは2連覇である)そうなので、キングも連覇に向けて、ぜひ読者諸兄姉のご助力を願いたいところである。

今もアップデートしつづける帝王の魅力

白石朗さん

 白石さんにも再び「電子書籍とキング」について聞いた。

「AmazonがKindleを発売したのが2007年ですか。2009年の新モデルに合わせて、キングがKindle配信限定で『UR』という中篇を発表しました。ぼくもこれが読みたくて当時Kindleを導入しましたね。Koboには申し訳ないんだけれど(笑)。

 この中篇は、この世に存在しない文豪の作品を“読めてしまう”電子書籍リーダーを手に入れた主人公が大変な目にあうという作品でした。ワープロ、パソコン、携帯電話、スマホと新しいテクノロジーが世に出るたびに、それを作品に取り入れていくキングの貪欲な姿勢が変わっていないことに感心しましたね。

 先日アメリカで刊行された最新短篇集の『You Like It Darker』には、電子書籍の購読サイトのScribdや、キング公式サイトが初出の短篇『ローリー』も含まれていました。これからもそういう試みを続けていくんだろうと思います」

 ちなみに『UR』は現在は文春文庫『マイル81』に収録されているので、Koboでも紙の文庫版でも読むことができる。そして、『ローリー』は無料(!)電子書籍『デビュー50周年記念! スティーヴン・キングを50倍愉しむ本』に収録されており、こちらもKoboでひと足先に読めるのである。

 ……と、さりげなく宣伝しつつ、最後に改めて受賞作への思いを。

「若い読者の方には、今回の受賞作になった『異能機関』をまず読んでみていただければと思います。超能力をそなえた少年少女が監禁されている謎の施設。その施設を動かしている圧倒的な権力とけなげに戦う主人公たちに、あなたはいつしか声援を送るようになっていることでしょう。この作品でキングという著者名が〈おもしろ本の目印〉だとわかったら、あとはキングが50年間に書いて世界じゅうの読者をとりこにしてきた作品群があなたを待っています!」(白石さん)