イギリスのパブリックスクール(名門中高一貫校)をご存知だろうか。卒業生の多くが、世界大学ランキング1位のオックスフォード大学やケンブリッジ大学へ進学。イギリスの歴代首相を40人近くも輩出し、映画『ハリー・ポッター』のロケ舞台にもなった。秘密主義に包まれたその教育の奥義を明かした『英国エリート名門校が教える最高の教養』(ジョー・ノーマン著)がこのたび発売され、話題を呼んでいる。著者自身もイギリス最古の名門パブリックスクールで学び、オックスフォード大学へ進学した経歴の持ち主だ。本書に収録された「秘伝の読書リスト114冊」のなかから、教養の礎となるノンフィクション10冊をセレクトし特別に公開する。

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1 『国家』(上・下)プラトン 岩波文庫 

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「ヨーロッパ哲学の伝統は、プラトン哲学の脚注に過ぎない」(アルフレッド・ノース・ホワイトヘッド)。プラトンは『国家』で理想的な国家像を提示するが、哲人王は民主主義よりもすぐれている、子供たちは出生時に親から引き離される、「高貴な嘘」によって下層階級の秩序が保たれているといった、ややファシズム的なものも読み取れる。

2 『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』マックス・ヴェーバー 岩波文庫

プロテスタントが多い北ヨーロッパは、カトリックが多い南ヨーロッパより裕福だ。なぜならプロテスタントは勤勉と貯蓄と自己規律によって天国に召されると信じているし、勤勉も貯蓄も自己規律も資本主義の美徳であるからだ。

3 『21世紀の資本』トマ・ピケティ みすず書房

数世紀にわたる税務記録を見れば、資本(物を所有すること)が労働(生計のために働くこと)以上に常に利益をもたらすことがわかる。ゲームは最初から仕組まれているのだ。そんなことはないと思われていたが、確かにそうであると本書で確証が得られる。

4 『WEIRD(ウィアード)「現代人」の奇妙な心理』(上・下)ジョセフ・ヘンリック 白揚社

民主主義がヨーロッパで広がり、ほかの地域で広がらなかった理由は、カトリック教会が西暦五〇〇年から一五〇〇年にかけて、いとこ同士の結婚を禁じたからだ。その結果ヨーロッパでは、家族や氏族の結びつきが強い地域では見られない、「見知らぬ人たちとの結婚」が広まることになった(「奇妙な」の英語はweirdで、Wはwestern[西洋の]、Eはeducated[教育を受けた]、Ⅰはindustrialized[工業化された]、Rはrich[裕福な]、Dはdemocratic[民主的な]を示す)。

5 『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』(上・下)ユヴァル・ノア・ハラリ 河出文庫
『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』(上・下)ユヴァル・ノア・ハラリ 河出文庫

どちらも頭からすべて読むというより、手軽に読み進めるのがいい。ホモ・サピエンスは「川の近くにライオンがいる」と思い込むことでたがいに協力できるようになったとする章や、フランスの自動車メーカー、プジョーの物語を人々がいかに信じるようになったかを説く章(ともに『サピエンス全史』第1部「認知革命」)など、実に読み応えがある。