6月14日から公開中の黒沢清監督の新作『蛇の道』は、1998年に公開された同名作品のセルフリメイクだ。

 子どもを殺された男とその協力者による復讐劇で、オリジナル版で哀川翔が演じた主人公を柴咲コウが演じる。今回が初タッグとなるお二人に語り合っていただいた。

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どの時代でもどの国でも成立する『蛇の道』

黒沢 フランスのプロダクションから過去の自分の映画をリメイクしないかとオファーが来て、すぐに浮かんだのが『蛇の道』でした。高橋洋くんが書いたオリジナル版の脚本は非常に力強くシンプルな構造なので、どの時代でもどの国でも成立するだろうと。

 ただ、同じものをつくっても仕方ないので、主人公を女性にしてみようと考えました。

柴咲 黒沢監督とは今回が初めてですが、多くを語らず、撮影のなかでなにかを見出していくというのが面白いと感じました。

 私は詮索してしまう傾向があり、監督にも事前にいろいろ質問してしまったのですが、その場で回答を得られたとしても言葉だけでは伝わらないものがあって、そこをいかに自分で汲み取って表現していくかが大切なのだと思いました。

左から柴咲コウ、黒沢清監督 ©杉山拓也/文藝春秋

とても困難なものに挑戦したい時期だった

──柴咲さんはフランス人俳優ばかりのなかで、全編ほぼフランス語で演技をされています。

柴咲 そこはとても高いハードルでしたね。ただフランス語を話すだけでなく、言葉のニュアンスや振舞いを一から習得しなければならないし、現地で暮らしている人間として馴染んでいなければならない。

 それでホテルではなく現地のアパートで実際に生活しようと思いました。25年お芝居を続けてきて、とても困難なものに挑戦したい時期でもありました。

──オリジナル版の哀川翔さんと柴咲さんでは性別以上に身体的な存在感も異なりますね。

黒沢 そうですね。柴咲さんの出演作を拝見していて、その眼差しに強烈ななにかがあると確信していたんです。

 ただ実際に撮影を始めてから、こんなにすごい身体性をもっている方なのかと驚きました。車のドアをバタンと閉めたり、ペットボトルのキャップをポンと投げたりと、一つ一つが印象づけられます。

フランスのスタッフから「柴咲さんのフランス語は思った以上にいいね」と言われたという © 2024 CINÉFRANCE STUDIOS – KADOKAWA CORPORATION – TARANTULA

柴咲 そのようにご評価いただき嬉しいです。小夜子は、小柄な日本人女性なので、フランス人男性のなかで強さがにじみ出ればいいなと思いました。現地で一人の生活をしていて、歩き方やたたずまいに出るようになったんでしょうか。