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「被災直後、余震を警戒しながら水槽の確認を進めた時には、まだ弱っている状態でした。飼育していた回遊魚は常に泳いでいないと呼吸ができませんでした。泳ぐことで海水を口から流し入れ、エラを通過する時に海水に含まれている酸素を取り込むのです。このため普通ならエラをパカパカするようなことはありません。でも、苦しかったのでしょう。エラを広げるなどして、必死で酸素を取り込もうとしていました」と高橋係長は振り返る。そうした魚の命が次々と尽きていった。

 ブリ、ヒラマサ、カンパチは食卓でもおなじみだが、実は繊細な魚だ。「最初に水槽に入れる時も、慣れるまでが大変なのです」と高橋係長は語る。

海獣は一時的に他園に避難させることに

 逆に水質の悪化に強かったのは、マダイやハタの仲間だった。「自分で一生懸命にエラを動かせば酸素が取り込める魚種はなんとか生き延びました」と高橋係長は言う。

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 1万匹のイワシが円を描くようにして集散を繰り返す「イワシのビッグウェーブ」の水槽でも、濾過循環のポンプが止まり、徐々に死んでいった。取材した時点でも、「水が濁っていて目視では魚の状態がなかなか確認できない」(高橋係長)という状況だった。マイワシも環境の変化に敏感な魚なのだ。

 海獣などは、9種63個体を一時的に他園に移すことで命を守った。

 これにもリスクが伴う。生物にとって人の手による陸上輸送は大きなストレスになる。

 例えば、イルカ。

 のとじま水族館では小型のカマイルカを12頭飼育していた。これを和歌山県、福井県、神奈川県の3施設に分散して託した。

イルカとジンベエザメは2大スターだった(のとじま水族館の入口)©葉上太郎

「水を張った容器に半分ぐらい浮かべた状態で移動させるので、かなり大変な作業でした」と高橋係長は話す。

環境の変化でイルカが急死

 送り出す時はいつも通りに見えた。ところが4日後、長老のオス「グリム」(推定28歳)が急死した。

 グリムの正確な年齢は不明だ。七尾市沖で定置網に迷い込んだところを、のとじま水族館に引き取られたからだ。カマイルカの寿命は36~40年といい、推定では「人生」の残り時間は4分の1程度だったと見られる。

 頭が良くて、運動能力も高く、リーダーシップのあるイルカだった。優しい目をしていて、来客にも人気があった。

 のとじま水族館では、カマイルカの身体能力の高さを知ってもらおうと、イルカのショーを行っていた。吊るしたボールにタッチする大ジャンプ、尾びれでボールを後ろに蹴るオーバーヘッドキック。数々の見せ場で中心になったのはグリムだ。