あの日、石川県七尾市の能登島にある「のとじま臨海公園水族館」(愛称・のとじま水族館)では、多くの来館者が島内に取り残された。能登半島地震で橋が通行止めになり、帰宅できなくなったのだ。地震後に長期休業を余儀なくされた水族館は、夏休み前の営業再開を目指している。しかし、また取り残されるようなことは起きないか。最盛期には島民人口の4倍ほどの客が訪れる施設だけに、「備え」が求められる。
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携帯電話の緊急地震速報がけたたましい音を立てた。
「すぐにガタガタと揺れ始めました。『久しぶりに大きな地震だね』と、同僚と話していたんです」
のとじま水族館の高橋勲・企画係長(50)が振り返る。
地震当時、館内には200人ほどの来館者が残っていた
2024年1月1日、午後4時6分。同県珠洲(すず)市で最大震度5強を計測する地震が発生した。のとじま水族館のある能登島は、珠洲市の震源とされる地点からだと直線距離で20kmほど離れている。島は震度3だったが、かなり強い揺れに感じたという。
能登半島地震では大きく分けて2回の大きな揺れがあり、その1回目だった。
水族館は一般財団法人「石川県県民ふれあい公社」が経営している。例年通り正月から開館し、職員約55人のうち30人近くが出勤していた。
辰年の元日とあって、ダイバーが龍の着ぐるみ姿で水槽に潜る。家族連れやグループが水槽の外から“一緒に”記念写真を撮るなど、館内は和やかな雰囲気に包まれていた。
「日中は700~800人の来館があったと思います。冬期の閉館時間は午後4時半。地震が起きたのはその20分前だったので、『もう帰ろうか』というお客様が出口に近い売店付近に集まっていました。普段はこの時間だと10~20人程度しかいませんが、200人ほど残っていました」と高橋係長が話す。
無線で全職員に来館者の避難誘導をするよう指示
最初の揺れの後、地震発生時のマニュアルに従い、職員は施設・設備の点検や来館者の確認などに散らばった。
その4分後の午後4時10分、これまでになく激しい揺れに襲われた。
「私は事務所にいたのですが、何かにつかまらないと立っていられないほどの横揺れでした。重い机がおもちゃのように右へ左へと軽々動きます。いつ収まるのだろうと思うぐらい長く感じました」(高橋係長)
輪島市などで最大震度7を計測し、能登島の震度は6強の激震だった。
もはや設備の点検などしている場合ではなかった。無線で全職員に来館者の避難誘導をするよう指示を出した。
のとじま水族館は海に面して建てられている。出口は山側の高台につながり、バス駐車場になっていた。続々と逃げ出した来館者は、まずはこの駐車場に集まった。もう一段上にある一般駐車場で自分の車に逃げ込む人もいた。不幸中の幸いで、けが人はなかったようだ。