能登半島地震で被災し、長期休業を強いられた「のとじま水族館」(石川県七尾市能登島)では、計約40種類・5000匹もの命が失われた。一方では生まれる命もあり、生命の力強さを感じさせる。だが、失われた生物はどう補うのか。これまでは能登半島の漁師から提供されてきたが、漁師の中には港が被災したり、船を失ったりした人が多い。地元密着の水族館だけに、影響は長引きそうだ。

「休館」(のとじま水族館)©葉上太郎

復旧工事がなかなか進まなかった理由

 水族館には多くの配管がある。2024年1月1日に発生した能登半島地震では、そうした配管の破損に苦しめられた。

「1カ所を直して水を通すと、新たな水漏れが分かる。また直して水を通すと、さらに破損箇所が分かる。いたちごっこのような繰り返しが続きました。それだけではありません。職員で直せない箇所は専門業者に頼むのですが、そうした業者は水道の修理にも追われていました。能登半島地震では水道管の破損で多くの地区が断水したのです。まず、人家の水道を直さなければならないから、水族館の工事を優先してもらうわけにはいきません。そうした影響もあって復旧工事はなかなか進みませんでした」。のとじま水族館の高橋勲・企画係長(50)が説明する。

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 水が十分に供給できず、濾過装置も壊れたり機能が落ちたりすれば、水質が悪化する。白く濁り、中がどうなっているか分からないような水槽まで出現した。

水質悪化で回遊魚が大量死

 このような環境では、繊細な生き物から死んでいく。「空気が悪化すれば、人間だって体調がおかしくなるのと同じです」と高橋係長は語る。

「のと海遊回廊」では多くの生物が死んだ。

ブリ 写真提供 のとじま水族館

 のとじま水族館の基本コンセプトは、能登半島周辺の生物展示だ。「のと海遊回廊」では北陸の回遊魚を飼育展示し、1周40m弱のドーナツ型水槽を体長80cm~1mのブリ、ヒラマサ、カンパチが100匹ほど泳いでいた。海草が生い茂る海をイメージしたプロジェクションマッピング(立体的な物への映像投影)も導入し、まるで能登の「里海(さとうみ)」の中にいるような臨場感が味わえた。

 だが、「ポンプが止まり、エアの供給もできなくなったので、水質が悪くなって大多数が死んでしまいました」と高橋係長は肩を落とす。