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橋が通行できなくなったのは今回が初めてではない

 高橋係長は「5月のゴールデンウイークや夏休みには、1日に8000~9000人が来館します」と話す。それなのに、2023年5月5日の「こどもの日」には大きな地震が起きた。

 午後2時42分、今回の能登半島地震と同じエリアを震源とする最大震度6強の地震が発生。珠洲市で1人が死亡し、同市などで1685棟の住家が損壊した。

 能登島は震度4で済んだものの、もし橋が通れなくなっていたらどうなっただろう。能登島の人口は2310人(2024年4月末時点)。水族館には多い日で島民人口の4倍もの来館者がある。

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 しかも、橋が通行できなくなったのは今回が初めてではない。能登半島地震は2007年3月25日にも起きた。七尾市などで最大震度6強を計測し、能登島大橋は橋台が損傷して1週間通行止めになった。

「今回の通行止めが1日で済んだのは、前回の能登半島地震の後、補強工事をしていたからです。もし、していなかったら、どうなったか分かりません」と石川県の担当者は言う。

能登島大橋 ©葉上太郎

 もう1本のツインブリッジは今回大破した。橋台と橋げたの間にある連結材が損傷し、大がかりな修理が必要になったのだ。このため地震の発生直後から通行止めになっていて、いつ開通するか決まっていない。現在、能登島と能登半島の行き来は能登島大橋だけに頼っている。

今後、島民人口を上回る観光客が島に取り残された場合は…

 そのような状態ではあるものの、馳浩・石川県知事は2024年7月中旬までに水族館を再開させると表明した。

 水族館は設備の損傷や生物の大量死で休館していたが、「まずは準備の整った施設から、夏休み前に営業再開できるように準備を加速します」と記者会見で述べたのだ。

「のと海遊回廊」天井落下 写真提供 のとじま水族館

 それまでにツインブリッジが開通しなければ、島への交通は能登島大橋1本しかない。

 この能登島大橋とて再び被災しないという保証はあるだろうか。2024年6月3日には最大震度5強を計測する地震があり、輪島市で5棟が倒壊している。

 島民人口を上回る観光客が島に取り残された場合にどうなるか。避難所や備蓄などの準備をしておかなくていいのだろうか。島民も来館者に居場所を提供したり、食料を分けたりしなければならない。

 高橋係長は「水族館だけでは対処できないので、県や市という大ぐくりの中で考えていく必要があります」と話す。

 七尾市の防災担当者は「そこまでの想定はしていません。地震によって被害は違い、島外への救出など対応も異なるからです。市だけでは対処できないでしょう」と語る。「それでも備蓄など準備できることはある。島民も心づもりをしておかなければならないのではないか」と尋ねると、「確かにそうした課題はあるかもしれないので、検討はしていきたい」と述べていた。

 被災前は年間40万~50万人の入場があった水族館。営業再開は被害が大きかった能登半島に明るい話題になる。遠方からの来客もあるだろう。だからこそ、想定できるものは想定しておきたい。

撮影 葉上太郎