かつて、乳がんの手術は全摘のみならず、あばら骨まで浮き出る過酷なものだった。しかし、乳房温存や乳房再建、リンパ節切除の省略など、患者のQOL(生活の質)に考慮した手術が工夫されるようになった。経過が長い病気なだけに、医師選びも大切だ。
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乳がんは女性にとって、非常に身近で気になる病気だろう。
国立がん研究センターの発表によると、2016年の乳がん罹患者数は約9万人、乳がん死亡者数は約1万4000人と予測されている。
よく耳にするかもしれないが、女性は生涯で12人に1人が乳がんになると言われている。小学校のクラスメイトが40人いたとしたら、その中で1人か2人は乳がんになる計算だ。ただし、乳がんで死亡する女性は生涯で70人に1人と多くない。つまり、乳がんになっても、治る人が多いことを意味している。
実際、通常は「がんが治った」とされる目安として5年生存率が用いられるが、乳がんの場合は、長期に生存する人が多いのと、5年以上経ってから再発する人もいるので、その目安として10年生存率が用いられている。進行が早く、治療が難しいタイプもあるので一概には言えないが、診断されてから長い経過をたどる人が多いのが、乳がんの特徴の一つと言えるだろう。
むかし、乳がんの手術はがんの取り残しがないように、乳房を全摘するだけでなく、胸の筋肉から、鎖骨下や腋窩(脇の下)のリンパ節までをごっそり取る「ハルステッド手術」や「拡大乳房切除術」と呼ばれる手術が主流だった。切除した胸がえぐれて、あばら骨が浮き出る過酷な手術で、脇の下のリンパ節を切除したために体液の流れが悪くなり、腕が腫れるリンパ浮腫に苦しむ患者も多かった。