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女性は生涯で12人に1人が乳がんに――乳がん手術の現在

2018/09/25

無理に乳房温存せず再建が増えた

 しかし、欧米の臨床試験で、そこまで大きく切らなくても、術後の生存率は変わらないとする結果が相次ぎ、日本でも1980年代頃から、これらの大きな手術は廃れていった。代わって増えていったのが、胸筋を温存する「乳房全摘手術」と、腫瘍だけを切除する「乳房温存手術」だ。

 とくに乳房温存手術は、「おっぱいを残せる手術」としてマスコミの注目をあび、10年ほど前までは乳房温存手術の割合が高いほどいい病院かのような報道もされた。しかし、腫瘍の大きさや位置によっては、乳房を無理に残すと乳房に大きな凹みができたり、乳首の位置がずれたりしてバランスが悪くなり、かえって患者にとって不満の残る結果になることも指摘された。

 その結果、06年頃から、全乳がん手術に占める乳房温存手術の割合は、6割ほどで頭打ちになっている。その代わり、乳房の形が崩れそうな場合は無理に温存せず全摘して、乳房を再建する手術が増えた。

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 これには、自分のお腹または背中の組織(皮膚、脂肪、筋肉、血管など)を移植する方法と、シリコン製の人工乳房を挿入する方法がある。いずれも、保険適用で手術できるようになった(一部には、自由診療で実施している施設もある)。また、乳首も再建でき、優れた形成外科医が行えば、自然な乳首と見分けがつかないほどの出来栄えにつくることができる。

 現在、乳房温存手術ができる目安は、進行度がステージⅡまでで、腫瘍の大きさが3センチ以内とされている。また、それ以上の大きさでも、術前に抗がん剤と放射線治療を行って、小さくなれば乳房温存手術ができるようになる場合もある。ただし前述のとおり、見た目やバランスが悪くなることもあるので、手術を受けた場合、乳房の形がどうなるかを事前に医師に確かめたうえで、温存か全摘かを決めたほうがいい。

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 もう一つ、乳がんの手術で大切なのが、できるだけリンパ節を残すことだ。前述した通り、脇の下のリンパ節を根こそぎ切除すると、「リンパ浮腫」が起こりやすくなる。そこで術中に、転移の可能性があるリンパ節を特定する検査が行われるようになった。これを「センチネルリンパ節(見張りリンパ節)生検」と言う。

 具体的には、腫瘍の周りや乳輪に、微量の放射性同位元素を含む薬液を注射する。すると、薬液がリンパ管を通じて、がんが転移しうるリンパ節に流れ着く。それを専用の検出装置を使って見つけ出し、摘出後すぐに病理検査に出す(術中迅速診断)。その結果、転移が見つかれば、残りのリンパ節も切除するが、転移がなければ切除を省略することができる。

 センチネルリンパ節生検は、2010年から保険適用となった。乳がん手術数が多く、病理検査を担当する「病理医」が所属している施設なら精度の高い検査ができるはずだが、経験が乏しい施設だと、転移を見逃されるリスクもある。なので、早期がんで腋窩リンパ節の転移の有無が不明と言われた場合は、この検査の実績や体制があるかもチェックして、病院を選んだほうがいいだろう。