ジバンシィが手掛けたピンクのミニ丈ウエディングドレス
こうして、急激に愛を深めていった2人は、結婚式ではドッティがシンプルな黒のスーツに胸にはコサージュを添えて、そして、オードリーは旧友のジバンシィがデザインした薄いピンクのファルネックのミニドレスに、白いタイツとバレエシューズという実にアイコニックでエイジレスなウエディングドレスで現れる。
頭に巻いたヘッドスカーフが公私共にオードリーファッションを代表するアイテムなのは言うまでもない。
少女帰りしたような花嫁を見守ったのは、9歳になる長男ショーンと、この結婚を誰よりも後押ししていた親友のドリス・ブリンナー(ユル・ブリンナー夫人)と俳優のキャプシーヌ、そして、この恋が生まれたヨットのキャプテン、ポール・ウェイレルたちだった。
『パリの恋人』ではバレリーナのような1着をまとって
さて、オードリーが映画で着たウエディングドレスは、『パリの恋人』(1957年)のクライマックスに登場する。
ロケ地に選ばれたのはシャンティイ城で有名なフランス郊外。2つの川に挟まれた細長い島でオードリー扮するジョーとフレッド・アステア演じるカメラマンのディックが名曲“ス・ワンダフル”をバックに華麗な歌とダンスを披露する。
突然ファッション誌のキャンペーンガールに選ばれたジョーとプロのカメラマン、ディックが、互いの、そして観客の望み通りハッピーエンディングを迎えるシーンで、ジバンシィはオードリーのためにバレリーナのようなチュールスカート、サブネックラインのいかにもオードリー的なウエディングドレスをデザイン。
ソフトフォーカスの画面とも相まって、このシーン、つくづくうっとりするのだが、実は撮影日まで続いた長雨の影響で沼地はぬかるみ、オードリーお気に入りのサテンのダンスシューズが泥塗れになってしまう。
アステアが「あんな場所じゃあ踊れないよ」と文句を言い、スタッフ全員が絶望的になる中、オードリーのユーモアがその場の気まずさを救う。彼女はこう言ったのだ。
「私はフレッド・アステアと踊るチャンスを20年間も待ち続けたのよ。それなのに私が得たものは何? 目に入った泥よ!」
緊張感溢れる映画の撮影現場をたった一言で和ませたオードリーの機転が、美しく斬新なウエディングドレスの思い出とリンクした『パリの恋人』。
ウエディングドレスにはシナリオには書かれていないドラマがいつも隠されているものなのだ。