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 この建物を解体するとなるとどのくらいになるだろうか。鉄筋コンクリート造の解体費および関連費用を加えると坪当たり15万円として7500万円。売買契約をした住戸に対する違約金も発生する。宅建業法上は売主都合による契約解除では買主から預かった手付金の倍額相当(手付倍返し)を支払う必要がある。手付金を売買価格の1割として1住戸1600万円(800万円×2)。今回は引渡し直前でのキャンセル。買主の中には住んでいた住戸をすでに売却している人などがいる可能性があり、今後の実損をめぐって損害賠償を請求される恐れがあるので何らかの補償金を加算する必要がある。ざっくりだが戸当たり500万円を補償するとすれば1住戸あたり2100万円。18戸の契約率を7割として13戸が契約済みとすると補償額は2億7300万円。

株主からみれば、踏んだり蹴ったり

 これらの損失額の合計は表面上で計算しただけで建物の除却損を足し合わせて19億円程度の金額になる。これを「積水は大手だから、鷹揚だ」などとは言えないだろう。同社は2017年、品川区西五反田にある600坪の開発用地の取得にあたって、地面師に騙されて63億円を詐取された事件でも世間を騒がせた。「建ててみたら、あれ? たしかに富士山見えなくなっちゃったから、ごめんね。壊します」で済まされる事案ではない。

 すくなくとも同社の株主からみればまさに踏んだり蹴ったりである。今年の株主総会は4月下旬に終了しているが、来年の株主総会までに株主は忘れるだろうなどと高を括っているとも思われない。本当にどのように対処するつもりだろうか。

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 事業者側は開発手続きも建物建設における構造上の問題もなかった、と説明しているが、なんらかの事象が発生し、このまま引き渡すよりも解体撤去するほうが良い、という判断を下したのではないかと勘ぐる業界関係者は多い。

積水ハウスのマンション解体を知らせる張り紙 ©時事通信社

行政にとっても「寝耳に水」の事態

 次の関係者が(2)行政(3)住民だ。行政からみても解体撤去の発表はまさに「寝耳に水」の事態であったようで、あたかも行政の不作為で強硬に反対する住民を十分に説得できず、結果として解体撤去になったかのようだ。国立市は開発を否とするどうにも面倒な自治体であるとのレッテルを貼られかねない。

 本件が取り上げられた市議会でも永見理夫市長の答弁はしどろもどろに見えたし、「非常に遺憾」「事業者に厳重に抗議する」などまるで火の粉がかかるのを防ぎたいと言わんばかりの支離滅裂ぶりだ。

 実際に本件を受けて、私の周辺のある不動産関係者は、「ほーら。だから言ったろ。国立なんかでマンション建てちゃダメなんだよ。ルールがあるようでない。行政が一部の住民の大きな声ばかりを気にしているから、やってられないよ」と嘯いた。