マンション価格の高騰が話題の東京都内で6月初旬、世間を驚愕させる事件が起こった。東京・国立市にある7月引渡し予定の新築マンションが購入者に引き渡されることなく解体撤去されるとの話が各種メディアで取り上げられたのだ。

 事業者は大手不動産業者である積水ハウス。同社は6月11日にニュースリリースを行い、当該マンションについて「マンションの存在が富士山の眺望など周辺の景観に与える影響を十分に検討できなかった」として事業を中止、建物を解体撤去すると発表した。

積水ハウスが解体する分譲マンション ©時事通信社

 このマンションは「グランドメゾン国立富士見通り」と言い、JR国立駅から徒歩10分の立地に所在。敷地面積464.42㎡(約140.48坪)、建物延床面積1651.65㎡(約499.6坪)、地上10階建て、総戸数18戸の比較的規模の小さなマンションである。計画段階であればいざ知らず、建物自体は竣工していて7月の引渡しを目前にしての解体撤去は、その理由とともに世間から大きな反響を呼んだ。

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 さて、にわかには信じがたい話であるが、今一度冷静に今回の事態と本件にかかわる人たちのそれぞれの事情と立ち位置を整理してみよう。

前代未聞の決断を下した積水ハウス

 第一の関係者は(1)事業者の積水ハウスだ。不動産業界内でも前代未聞の決断を下したが、業界関係者の一致した感想は「信じられない」の一言に尽きる。実は国立市はマンションなどの不動産開発が「非常にやりづらい地域」として業界内では有名な街だ。かつて、2000年代初めには市内の大学通り沿いに建設された高さ44m、14階建てのマンションに対して、20mを超える部分(7階から14階部分)を撤去せよとの民事訴訟が提起されて話題を呼んだ。裁判は法令に則って建設した事業者側の勝訴となったが、できあがった建物に対して一部を壊せ、などというかなり強引な住民たちの要求は、業界内に国立市はかなりやっかいな地域であることを印象付けた。

 今回も法令に則って十分な協議を行い、開発申請において行政からも許可され、適正に建設された建物が「配慮が足りなかった」との理由で解体撤去されるというのはどうみても理不尽であり、これを環境に配慮した会社の英断などと賞賛するコメントに対しては正直違和感を覚えざるを得ない。

事業者側の負う損失はいくらなのか?

 実際に事業者側の負う損失はかなりの金額になることが推測される。取得した土地は約140坪。周辺の公示地価で坪当たり150万円程度なので、昨今の取引環境を加味し、実際の取得価格はおおむね1.5倍の225万円とする。土地代だけで3億1500万円になる。建物建設費は高騰を続けているが坪当たり建設費を140万円として延床面積約500坪だから建物代は7億円くらいだろう。これに土地取得関連費用、建物建設関連費用、広告宣伝費、本部経費などを加えると、ざっくりだが全体費用は13億円前後になるものと推定される。18戸の分譲価格は7200万円からとされているので平均8000万円として売り上げは14億4000万円。このマンションの分譲によっておおむね1億円強の利益を会社として目論んでいたはずだ。