おまけに他の居残り組が、ある裕福な家族の好意でスキー旅行へ出かけるなか、“たったひとり”学校に取り残されてしまう。
彼らに食事を提供する料理長のメアリーも、ベトナム戦争で息子を失ったため、“ひとりぼっち”だった。
『アバウト・シュミット』『サイドウェイ』の監督ならではの描写
そんな孤独な3人の織りなす人間模様が、この映画ではユーモラスに、それでいて心の機微にいたるまで細密に浮かびあがる。
『アバウト・シュミット』『サイドウェイ』『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』…数々の名作を手がけてきた監督、アレクサンダー・ペインでなければ、この芸当はできなかっただろう。
なによりまず登場人物をとらえるその視点が優しい。
たとえば息子を失ったメアリー(彼女に扮したダヴァイン・ジョイ・ランドルフは本作でアカデミー賞助演女優賞を受賞している)の、癒されることのない喪失感に、この映画は彼女の背中をさするかのような親密さで寄り添う。
メアリーはその悲痛な思いをあからさまに吐きだしたりしない。でもクローゼットにしまっておいた息子の遺品にそっと手を伸ばすような、なにげない動作をとらえることで、ペインは彼女の心のうちを写しとる。
脇役の描き方も細やかだ。学校に居残ることになってしまった他の生徒たちの、それぞれの寂しさにもそれとなく触れ、端役のひとりであっても単なるドラマの道具立てにしない。
反抗的な生徒アンガスが抱える葛藤
思うに、ペインの人物描写の土台には、人間を人間として描くというごく当たり前の、しかしだれもが備えているわけではない基本姿勢がある。
それゆえにポールみたいな一見いけすかない人物でも、嫌われ者という覆いを取りさり、その下に隠れたものをのぞかせたりできてしまう。すると、そこには悪意とほとんど無関係な、単に不器用なだけの人間の顔が現れる。
ポールと衝突する反抗的な生徒アンガスについても、その人物描写があらわにするのは、家族との不和に葛藤する、傷つきやすいティーンエイジャーの顔だ。
そうしてこの映画は、優しいまなざしで登場人物の素顔を見つめてから、彼らのあいだに唯一無二の関係を結ばせる。