3人で学校を抜けだしボストンへ
後半の筋運びなんて絶妙だ。
ポールはアンガスとメアリーに説得され、3人で学校を抜けだしボストンへ向かう。ペインが得意とするロードムービー調の展開は、彼らにかけがえのない経験をさせ、その距離をよりいっそう近づける。
孤独だった3人が、ほとんど家族同然のような相手を見出す姿は、微笑ましく感動的だ。
その一方でポールは、学校の外に出ることで、かたくなに信じこんできた正しさの枠外へ出ることになる。それは過去に築きあげてきたものを、みずから壊すことにほかならない。
古代史の教員であるポールはこんなふうに言う。
過去を学ぶことは、いまを知ることだ。でも過去がいまをかたちづくるわけではない。いつだっていまから始められるのだ、と。
彼は最後に、ある自己犠牲的な決断をする。
その決断を一言で表すなら、次のようになるだろう。
人は自分だけの人生を生きるのではない。
そして過去と決別した彼は、新たな一歩を踏みだしていく。
この映画は、嫌われ者以外のなにものでもなかった男、ポール・ハナムの始まりの物語なのだ。
『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』
STORY
1970年冬、全寮制のバートン校。生徒や教師の大半がクリスマス休暇を家族と過ごすなか、嫌われ者の教師ポール、複雑な家庭環境に育った生徒アンガス、息子を戦争で失った料理長メアリーの3人は、学校でクリスマスを迎えていた。なにもかもが異なる3人は、何度もぶつかり合いながら、親密な関係を育んでいく。
STAFF&CAST
監督:アレクサンダー・ペイン/出演:ポール・ジアマッティ、ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ、ドミニク・セッサ/2023年/133分/アメリカ/配給:ビターズ・エンド ユニバーサル映画/6月21日公開