1ページ目から読む
2/2ページ目

 正直、華やかなタイプでも、目に見えて意地悪そうな雰囲気でもなく、松っつんは穂乃香と同じ大人しめなタイプである。穂乃香は、松っつんと自分は気が合うに違いないと信じてやまないけれど、次第に彼女から発せられる言葉によって、可児江先輩との交際について少しずつ思い悩んでいく。

直接的な言葉ではなく、 じわじわと相手にダメージを…

 直接的な言葉を使わずに、相手にじわじわとダメージを喰らわせる松っつん。その姿は、恋愛マンガのライバルキャラあるあるの意地悪なんて生半可なものではなく、もはやホラー。その最たるシーンが、「古墳研究会」の新メンバー歓迎の一環で訪れた今城塚古墳での出来事だ。

 

 穂乃香と一緒に墳丘を登りながら松っつんは、しきりに可児江先輩との交際について探りを入れてくる。そして、発掘調査によって今城塚古墳こそが継体天皇陵だと言われるようになった「真の陵墓」になぞらえ、2人の関係についてこういうのだ。

ADVERTISEMENT

「間違えてましたーってならんかったらええなぁ」

 あれ? 私の思い違いかな? と感じるくらいの短い言葉。そして、これまで穂乃香の心の拠り所であり、可児江先輩との恋を育むきっかけであった古墳の存在を、こんなにも彼女の心に影を落とすものに変えてしまう一言である。

 

 ここ最近は読んでいると心が満たされるような、幸せいっぱいの『やまとは恋のまほろば』だったが、そんな本作の新境地ともいうべきか、イラつきどころか怖すぎる松っつんから目が離せない。

 そして、穂乃香がかつて本心を出せずにいた友人と今では良好な関係を築いているように、たとえ第一印象が悪くても、決して悪者では終わらせない。それが『やまとは恋のまほろば』という作品の優しさであり魅力だ。今はホラーでしかないけれど、松っつんという人間が好きになる瞬間が私たちにもきっと来るはず。その瞬間をぞわぞわしながら待っている。