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上流階級の女性を誘惑し「ナチスに復讐」する男だが…画面からあふれる、後戻りできない“やるせなさ”<かつての発禁小説を映画化>

注目女優・芋生悠が観た映画『フィリップ』

2024/06/22

source : 週刊文春CINEMA 2024夏号

genre : エンタメ, 映画

note

エキストラの動きや視覚的演出の巧みさ

 こうしたキャスティングもさることながら、凄いのがエキストラの方々の動きですね。街中で銃声が響き、ナチスが追跡する時のリアクションが見事だと思いました。

 モブシーン(群衆場面)は何度もリハーサルをしないと、お互いの視線を合わせるなどの動作の呼吸が合わないものです。それがドキュメンタリーの映像のように人々の動きがリアルでした。ミハウ・クフィェチンスキ監督の演出の巧みさに感動しました。

何度もユダヤ人であることが発覚しそうな場面があり緊張感が漂う ©TELEWIZJA POLSKA S.A. AKSON STUDIO SP. Z.O.O. 2022
©TELEWIZJA POLSKA S.A. AKSON STUDIO SP. Z.O.O. 2022

 メインキャストやエキストラの演技以外に、視覚的な演出も力強かったですね。撮影監督ミハウ・ソボチンスキの閉所恐怖症を引き起こすようなフレームの作り方は、まるで主人公の心象風景と一致しているようです。

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 裏道から大通りへの移動撮影、建物の上階から下へ降りるクレーン撮影など立体的なキャメラワークを行っているのですが、それらが全て弾圧される側への圧迫感を表現する効果があり素晴らしい映像でした。