直感の精度と速度は、その方の能力に従って決まってしまう
座右の銘とされている「直感精読」のご真意を伺い、やはり天才とはこういうことであるのだなとまた感慨を新たにいたしました。普通の方は、そもそもひらめき/直感が生まれたとしてもその段階で思考がある程度止まってしまいますから、その直感が本物であるかどうかの検証のプロセスを、精度良くこなすことは難しいのではないかと思うのです。
高速での精密な検証プロセスは、おっしゃるとおり日々の知的な鍛錬としての精読の賜物であると思います。もちろん、棋士の皆様は当然のたしなみとしておやりになることだとは承知しておりますが、これをどのような精度と速度でできるのかは、やはりある程度はその方の能力に従って決まってしまうものであるといえますから、生まれもっての天与の才というのは大きいものだとも思います。この検証プロセスなしには、せっかくのひらめきも単なる気まぐれに、直感もひとりよがりな思いつきになってしまうでしょう。
ややテクニカルな話になりまして恐縮ですが、直感の源は脳におけるデフォルトモードネットワーク(DMN)と呼ばれる仕組みにあります。これは、お風呂に入っているときや、居心地の良い環境にいて自由に連想できるときなど、リラックスしていて快適な状態で活性化する機構です。
DMNで生まれてきた発想を正しいかどうか検証して絞り込んでいくのが、セイリエンスネットワーク(SN)です。先生が日々「精読」によって鍛えておいでになるのはこのSNという仕組みであろうと思います。さらに、ここで絞り込まれた選択肢を抽出して実際の手としてどれが適切か判断するのが中央実行系(CEN)です。現代社会における教育では、CENばかりが鍛えられる仕組みになっており、DMNはあまり重視されていないのが残念なところですね。