生まれて初めて楽しい学生生活を送った大学時代
附属の大学に内部進学できる私たちは、受験シーズンが近づいても焦る人は少なかった。ただ少数ではあるが外部の大学や専門学校への進学を望む生徒たちもいて、私もそのひとりだった。
中高時代の同級生たちから離れたいと考えていた私は、エスカレーター式で進学できる大学を選びたくなかったのだ。念願かなって、第一志望である神戸女学院大学文学部に進学することができた。愛する母校だと今もあたたかい気持ちで振り返れるのは、小中高大でこの大学だけである。生まれて初めて楽しい学生生活を送った。
大学生だった4年間は、私が自分の人生について本格的に考える時期でもあったはずなのだが、フランスに短期留学したことをきっかけにフランス文学のゼミに入り、フランス語を勉強して「フランス関係の企業に入ってキャリアウーマンになろうかな」とのほほんと考えていた。のちに就職活動でフランス語ができても英語が堪能でなければ、ほとんどのフランス関係の企業には入れないと現実を突きつけられるのだが。
「セックスは生殖行為」だと急に突きつけられ
そんなある日、同じ大学に進学した、数少ない高校時代の知り合いに会った。彼女は懐かしそうにこんな話をし始めた。
「3年生の時に同じクラスだったAさんおるやん? 子どもできて結婚したらしいで」
戦慄した。
急にセックスが、生殖行為だと突きつけられたからだ。
腹の中で子宮が、くるくる回っている気がした。Aさんが、元クラスメイトだと再認識することができないほど、遠い存在になる。
また、高校時代は特別視されていたセックスも、20歳前後になると経験者が増える。
「生理来ないんよね。妊娠したかな、どうしよう」
お手洗いの個室にいると、知らない学生のそんな会話を耳にした。
怖い。
私は怯えてしまって、その学生がいなくなったあともなかなか外に出られなかった。当時、軽い男性恐怖症だったのもあるだろう。
中高大と10年間女子校で過ごして、きょうだいもいとこも女性だけ、ナンパされるたびに聞こえないふりをして逃げる生活を送ってきた私にとって、同世代の男子は、小学校でいじめてきたクラスメイトのまま時を止めている。その男子がセックスをする相手という認識はゼロだった。