既婚者であることを隠してマッチングアプリで女性と出会う、避妊をしない、妊娠させた相手から逃げる……。
「逃げるA」はそんな無責任な男・安藤と、彼と関わる女性たちを描いた群像劇である。読んでいて思わず「これほど身勝手な男性がいるだろうか」と憤りを覚えたが、すぐに彼が「どこにでもいる存在」であることに気が付いた。
フィクションとは思えないほど、あまりにもリアルで身近な社会問題に切り込んだ本作は、多くの人にとって当事者性を帯びている漫画ではないか。
【マンガ】『逃げるA』第1話を読む
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安藤の描かれ方は、日本社会のメタファーのように思える。女性の社会進出や「新しい価値観」を口にし、理解があるように振舞うが、根底にあるのは女性蔑視的・家父長制主義であり、女をまるで所有物のように扱ったり都合よく消費したりする。
作品内でたびたび触れられる「性教育の不足」もまた、日本が抱えている社会問題への重要な指摘である。日本の性教育が「妊娠の過程を取り扱わない」とする学習指導要領に則したものであり続ける以上、避妊や中絶について授業で詳しく教えることはできず、望まない妊娠を減らすことはできないだろう。