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 さて、少女たちの溜まり場だったシーレのアトリエに、ある日、13歳の家出娘がころがりこんで来た。シーレの言い分によれば、祖母のもとへ送ろうとしていた矢先だというのだが、結局その子の父親が訴えて警察沙汰になってしまう。裁判が開かれ、「誘拐」「淫行」「猥褻」の罪が争われたが、前者二件は無罪、猥褻物陳列罪では有罪になり、シーレは三週間以上も拘留された。

 警察がアトリエにある作品の多くを猥褻物として燃やした時には、芸術家としての誇りは大いに傷つけられたかもしれないが、シーレのこのスキャンダル自体は、大いなる性の都ウィーンではさしたる問題にならなかった。

出所後シーレはウィーンにもどる。長男気質のクリムトは彼にパトロンを紹介し、優しさを見せている。クリムトにとってシーレは、どこか放っておけない可愛げがあったのに違いない。

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中野京子(なかの・きょうこ)

北海道生まれ。作家、ドイツ文学者。2017年「怖い絵展」特別監修者。西洋の歴史や芸術に関する広範な知識をもとに、絵画エッセイや歴史解説書を多数発表。著書に『名画の謎』『運命の絵』シリーズ(文藝春秋)、『そして、すべては迷宮へ』(文春文庫)、『怖い絵』シリーズ(角川文庫)、『名画と建造物』(KADOKAWA)、『愛の絵』(PHP新書)、『名画で読み解く 12の物語』シリーズ(光文社新書)、『災厄の絵画史』(日経プレミアシリーズ)、『名画の中で働く人々』(集英社)など多数。

2024/06/19配信

父の狂死、妹との近親相姦的関係…クリムトと同時代を生きた画家、エゴン・シーレの過激な半生