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ずらす③ 有給休暇を全て使う

 そもそもゴールデンウィークやお盆に観光客が殺到してしまうのは、「有給休暇が取りづらい」という日本特有の課題が背景にある(外国人旅行客が2500万人超とはいえ、日本人の国内旅行者数は約5億人である/2023年)。閑散期の平日に休みを取ることができれば、観光地にも喜ばれるし、旅行代金も安く、観光地が本来持っている雰囲気をゆったりと楽しむことができる。待ち時間はないし、サービスの低下も少ないだろう。

 ドイツでは、観光客の集中を避けるために、州ごとに夏季休暇の時期をずらしている。

 日本でも2010~2011年に民主党政権下で休暇分散化の検討がなされている。その際には、日本を東日本、南関東、西日本の3ブロックに分けて、10月に1週間ずつ休暇を分散して配置するものであったが、その後は進展がない。

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 しかし、重要なのは、国が旗を振って大きく制度を変えるまでもなく、「有給休暇を全て使う」雰囲気を醸成することだろう。日本人の有給休暇取得率は、OECD加盟国で最低ランクである。

 そして、何より不思議なのは、残った有給休暇は翌年にほぼ没収されてしまう点である。アメリカやオーストラリアでは、残った有給休暇は「勤務日」として計上され、給与に上乗せで支払われる仕組みが一般的である。有給休暇の全部取得が当たり前の国もある。日本でも週末に働いたら特別手当が出る。土日に働いたのに手当が出なければ「サービス残業」として、ブラック企業と呼ばれるはずである。

 それがなぜか、没収された有給休暇については誰も文句を言わない。私は、あまり権利意識を持ちすぎても、人は幸せになれないのではないかと思っているが、有給休暇については、「取れなくて当たり前」という考え方が浸透しすぎていることが気になる。

 これでは、いつまでたっても、ゴールデンウィークやお盆休みに人が集中しすぎる傾向を是正できないし、人々の福利にも貢献しないように感じる。私たちはこうした状況を当たり前と思っているかもしれないが、果たしてそうだろうか。 

写真はイメージ ©︎Trickster/イメージマート

 30年ほど前の日本で「24時間働けますか?」という有名なCMが流れていたように、サービス残業が当たり前、産休・育休などあり得ない時代があった。しかし、今ではサービス残業は悪で、産休・育休は取るべきものとなっている。人々の価値観は容易に変わる。

 同じように、有給休暇は使い切って当たり前の時代が必ず来る。これは仕事の無駄を見直したり、効率を再検討する好機であり、旅行時期をずらすきっかけにもなるはずである。観光産業が繁忙期のみの季節雇用ではなく、通年雇用できるようになれば、人々はその地に住居を構え、その地に住民税を支払うようになる。これは地方創生にも資する。ぜひ有給休暇を使って、「ずらす」ことを心がけてほしい。