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あふれ返る外国人観光客…京都では「市民が市バスを使えない」観光客ひとりひとりができる、“オーバーツーリズム”への対策法とは

『オーバーツーリズム解決論 日本の現状と改善戦略』より#2

2024/06/30
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 また、混雑が生じている場所は、群衆事故が生じたり、テロに狙われるリスクも高まる。地震や津波といった災害時にも避難が円滑に行えず、パニックが生じる可能性がある。

 日本では日ごろから防災訓練や緊急地震速報などが整備されているが、日本に来ている外国人の多くは防災訓練をしたこともなく、緊急地震速報が鳴ってもどうすればよいのかわからない。日本人も海外に行った際に、どこが危険で、どこに避難場所があるのかわからないように、観光客というのは災害時にもっとも脆弱な存在である。安全管理、危機管理の観点からもオーバーツーリズムは対策されるべき事象である。

ずらす② 朝晩を狙う

 同じ繁忙期でも、人の少ない静謐な時間が流れるタイミングというものが存在する。たとえば、日本はサマータイムを実施していないので、5月から9月にかけては、朝の5時にはすっかり明るくなっていることが一般的である。6月の札幌は朝4時前には日が昇る。東京でも朝4時半には日が昇っている。この明るい朝の時間帯を使って、普段は人の多い公園や神社の境内を散歩するのは素晴らしい体験になるだろう。開園時間の決まっている観光地であっても、開園直後や閉園間際は人が少ないことが多い。

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 また、筆者は大学院生の頃に、研究の一環として、屋久島で有名なエコツアー会社でガイドの見習いをしていた。日帰りの縄文杉ルートは屋久島で一番人気のエコツアーだが、登山を開始するタイミングがほぼ同じ時間帯になるため、時期によってはとても混雑する。トイレも混雑、縄文杉の周辺も混雑……と、とても世界自然遺産にいるとは思えないような混雑となる。

 そこで、日程に余裕のある人には、早朝出発の日帰り登山ではなく、正午頃に登山口をゆっくり出発して、山小屋で一泊する登山を推奨していた。このコースだと、往路はほぼ自分たちのグループだけ、翌朝も世界遺産の静謐な森を独り占めしている気分になり、帰りも誰もいない中をゆっくり帰れる特典があった。

 混雑には必ず「構造」がある。その構造と少しずれた行動をとるだけで、混雑を避けることができ、分散に貢献することができる。それは地域や自然を守るだけでなく、自らの幸福にもつながる。