日本各地で、オーバーツーリズムが大問題になっている。たとえば京都では外国人観光客が溢れかえり、市民が市バスを使えないという事態が生じている。

 そんなオーバーツーリズムの問題と「解決方法」について論じた『オーバーツーリズム解決論』(ワニブックス)より一部を抜粋。観光客の抑制に成功している北海道・知床五胡だが、効果的な制度が導入できた理由の1つに「ヒグマ」があるという――。(全2回の1回目/続きを読む

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ヒグマがもたらした知床五湖モデル

 2023年は、ヒグマやツキノワグマによる人身事故が日本中で多発し、大きな問題となった。多くの日本の観光地は、海外とは異なり、良識やモラルに依存した情報的手法を主体とした方法を採ってきたため、世界遺産や国立公園のように公共性の高い空間を管理する仕組みが脆弱であり、なかなかオーバーツーリズムを抑制できていない。

 一方で、ある程度うまくいっている場所も存在する。その代表的事例が、知床五湖である。

夏の知床五湖 ©︎Shin.S/イメージマート

 知床は、世界自然遺産として多くの人が憧れる場所の1つである。様々なニュースサイトにおいて、「行ってみたい日本の世界遺産」トップ3の常連である(1位は不動の屋久島)。その知床のもっとも有名な観光資源が「知床五湖」である。その名の通り、知床の原生林に5つの湖が集まっており、遊歩道を1~2時間ほどかけて歩くことができる。その美しさもさることながら、エゾシカやエゾリスといった野生動物を見ることができ、遠く知床連山を眺められるなど、世界遺産の自然を手軽に堪能できる屈指の観光スポットである。

 知床五湖は、原生的な自然環境を有し、美しい景観を誇る一方で、大型バスの駐車場や遊歩道も整備されているため、マスツーリズム型の観光客も多く、年間40~70万人前後が訪れる知床随一の観光スポットとなっている。年間40万人といえば、原生自然にある観光資源としては、相当な人数である。

 実際に多数の入込者によって、植生の踏み荒らしや歩道の荒廃に加え、知床五湖の駐車場に入りきれない車による渋滞も生じており、排気ガスや騒音が生態系に与える影響が多くの論文や新聞報道で指摘されている。つまり、観光客の入込をコントロールしなければ、世界自然遺産にも登録される貴重な自然に悪影響が及び、観光客の利用体験の質も低下するという典型的なオーバーツーリズムの事例であった。

 一方、京都や富士山、屋久島がそうであるように、オーバーツーリズムだからといって、適正な観光管理の仕組みを作ることは容易ではない。