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オーバーツーリズムに有効な利用調整地区制度

 こうした中、知床五湖では、「自然公園法」という法律に基づく拘束力のある観光管理の仕組みの導入に成功した日本国内では稀有な事例である。

 自然公園法は、国立公園や国定公園を指定する根拠となる法律であり、この中に「利用調整地区」という制度が規定されている(自然公園法23条)。簡単に言えば、オーバーツーリズムが生じている場所や、オーバーツーリズムが生じそうな場所への立ち入りを許可制にして、1日あたり(または時間あたり)の利用者数の上限を定め、入域許可にかかる事務手数料を徴収できる仕組みである。

 導入から20年以上が経過するが、2024年2月現在、利用調整地区に指定されているのは吉野熊野国立公園の西大台地区と知床国立公園の知床五湖地区の2カ所のみである。知床五湖のように、必要に応じて、ガイド同行を義務付けることも可能である。利用調整地区への立ち入りには、事前講習が必要であり、その地域の自然や危険について知ることができる教育的な機会も提供している。

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 知床五湖では、利用調整をヒグマの目撃が多い「ヒグマ活動期」(5月10日~7月31日)と「植生保護期」(開園~5月9日 /8月1日~閉園)に分け、ヒグマ活動期には、利用者数の制限に加え、ヒグマの対処に慣れた「登録引率者」(いわゆるガイド)の同行を義務付け、植生保護期には事前に講習を受けた上で利用制限を行う手法が採用されている。

 2010年10月に、環境省より「知床五湖利用調整地区指定認定機関」の公募が実施され、地元の公益財団法人である「知床財団」が指定を受け、2011年5月10日から、知床五湖地上歩道への立入認定手続きが開始された。

知床のヒグマ ©︎BUKi/イメージマート

 オーバーツーリズムが指摘されている富士山や屋久島、沖縄県の真栄田岬や西表島、慶良間諸島等は全て国立公園や国定公園なので、「利用調整地区」は、オーバーツーリズムのリスクがある多くの場所で利用できる画期的な制度なのだが、合意形成が難しいことや実施の費用を誰がどのように負担するかが課題となりやすい。翻って言えば、どうして知床では利用調整地区を導入できたのか? という疑問が浮かぶ。