国立公園でオーバーツーリズムをコントロールする方法
知床五湖の事例で重要なのが、観光客のコントロール方法をめぐる行政の議論である。知床五湖では、(1)国立公園の管理を行う環境省、(2)遊歩道の管理者である北海道、(3)駐車場の地権者であり知床五湖の管理に関係する地元の斜里町の3者が主な役者となる。
利用調整の手法としては、上記で挙げた(1)環境省が所管する自然公園法に基づく「利用調整地区」の導入以外にも、(2)エコツーリズム推進法に基づく全体構想及び条例の策定(この場合、同法5条に基づき地元自治体である斜里町が事務局を担う)、(3)知床五湖の遊歩道を管理する北海道によって公物管理権限に基づく条例策定による規制、の3案が検討されている。
その際、エコツーリズム推進法の適用は、地元斜里町が「国立公園の問題である」として難色を示し、北海道も同様に条例策定に難色を示している。斜里町の担当者(当時)は、「知床五湖は国立公園の特別保護地区にあり、制度の中に利用調整地区という立派なツールがあるので、あえて町で新たな条例を作って対応するものではないというのが基本的な考え方」と述べている。
このように、オーバーツーリズム対策は、いろいろな省庁や自治体にまたがり、必ず誰かがやらなければならない業務として定められていないため、省庁間の隙間に落ちてしまうことが多い。私は博士論文で、こうした課題を「隙間事案」と呼んだが、省庁間の「隙間」に落っこちた難しい問題(いわば、火中の栗)を誰が拾うのかが難しい問題である。
知床では、従来、利用調整を避けたがる環境省の担当者が、責任をもって対応したわけだが、その背景には、土地所有者や利害関係者から反対がなかったことや、長い年月をかけてヒグマ対策が話し合われてきた歴史的経緯が挙げられる。
知床には、観光客によるヒグマへの餌やりなど、様々な課題が残っているが、既存の法律を使うことで、主要な観光資源をオーバーツーリズムから守れるという事実は広く知られるべきだろう。現状、利用調整地区の導入には、上述したような課題が存在するが、国立公園の管理者である環境省の人員と予算を向上させ、土地所有権を整理すれば、かなりの程度、対応が容易になることが想定される。