わたし、“正子と次郎の娘”業なんだ(笑)
桂子さんは自分の家庭、そして実質的に隣の両親の家の“主婦業”を満喫してきたが、2001年に旧白洲邸を「武相荘」としてオープンして以来、休日をとることもままならない。
「仕方ないわね。わたし、“正子と次郎の娘”業なんだ(笑)。でも、忙しいからこそ、暇な時間がいっそう有難く思えてくるのね。夫は、西武百貨店に勤めていたりしていたんだけど、今はここの館長をやっていて、役所の人たちとのやり取りとか、渉外担当よ」
桂子さん自身は「株式会社こうげい」の社長として、共同運営をしているポニーキャニオンやビームスの人たちと、日々、イベントの企画や運営に奔走している。
「正子と次郎の娘でよかったかな、と思うのはね、私、若い人とも年配の人とも、同じように付き合えるの。小さい頃から、両親が色々な人と分け隔てなく交際しているのを見てきたからかな。“世の中は、私の知らないことだらけなんだ”と、日々、教えられて、それが楽しい。私は今のアイドルを知らないし、彼らは小林秀雄を知らない。だから面白い」
最近、会員制の「武相荘の倶楽部」で、しだれ桜で有名な京都の東福寺に行ってきたという。白洲次郎の父、実業家・白洲文平が伊丹に建てた屋敷の一部が移築され、本堂となっている。
「わたしの父方の爺さん、普請道楽で、一軒建てるとイヤになって、すぐ次のウチを建てる人だったんだって。だもんで、大工さんがいつも家にいたらしいの。次郎さんはその大工さんにいつも、くっついていたらしい(笑)。だから大工仕事は大好きで、私の名前の『桂』を彫った机をこしらえてくれたわよ」
インタビューの後、武相荘の出入り口の桜の木まで見送りに出てくださった桂子さん。
「この桜はね、ご近所で、斬られる、という予定を聞いて、頼み込んで譲り受けたの。植え替えるの、えらく大変だった(笑)」
古いものを甦らせ、未来につなぐ。母は文章の世界で、娘は現実の世界で、同じ仕事をされているように感じられた。
「旧白洲邸武相荘」
https://www.buaiso.com/