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漫画やドラマの主人公はADHDタイプが多い

岩波 そうですね。ありうるかもしれません。実はたまたま新聞の企画で色々調べているんですが、漫画やドラマでも魅力のある登場人物って、結構ADHDタイプの人が多いんです。たぶん鳥集さんの世代だとわかると思うんですが、『東京ラブストーリー』というドラマ化された漫画がありますが、ヒロインの赤名リカさんが、たぶんADHDです。

鳥集 いろんな男性と浮名を流して、主人公のカンチ(永尾完治)を振り回したあげく、突然会社をやめて、急に海外へ飛んでしまう。

「東京ラブストーリー」で鈴木保奈美さん(中央)演じた赤名リカはADHD? 

岩波 思ったことをパッと口に出しちゃうとか、怒りを抑えられないでワーッと言っちゃうとか。多動のようなはっきりした症状は出てないけど、ああいう行動パターンはADHDの人なんです。本人はカンチを振り回してるつもりはないんですよ。本人が思うがままに行動してしまうので、まわりが勝手に振り回されるだけ。本人は純真で、悪気はあまりないんです。

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鳥集 原作の柴門ふみさんがADHDのことを知っていたかどうかは別として、そのような人の特徴をよくとらえて描いておられたんですね。

鳥集徹さん ©白澤正/文藝春秋

岩波 もっと前だと、大竹しのぶさんと明石家さんまさんのドラマがありました。

鳥集 『男女7人夏物語』ですね。確かに、あの大竹しのぶさんの演じた神崎桃子も、さんまさん演じる今井良介とケンカしたかと思ったら、急に愛情をストレートにぶつけたり、仕事で海外に飛んだっきり連絡もせずに何年も帰ってこないなど、自由奔放なキャラクターです。

岩波 あの大竹さんが演じた役も、赤名リカと似たタイプですよね。思いついたらパッと行動して、好き勝手に振り回す。そういう人は、常識的な人から見ると魅力的に感じるんです。実社会でもそうで、目立つ人、ちょっとキャラが立ってる人というのは、診断がつくかどうかは別としてADHDタイプ。そういう意味でも社会的に重要な存在なんじゃないかなと思うんです。

鳥集 私も社会の構成員として大切な存在だと思います。そうした気質に病名をつけたり、障害という言葉を使うべきかどうか、考え直してみる必要もあるのではないでしょうか。

岩波 実生活で問題なければ、わざわざ疾患とみなす必要はないと思います。特性でいいと思うんです。

実は公務員は発達障害の人には向いてない

鳥集 そういう方々は、職業としてはどういう仕事が向いているんでしょうか。ADHDとASDは分けて考える必要があると思いますが。

岩波 我々の病院で調べた限りでは、ASDの人は静かな事務職というか、わりと決まった仕事を黙々とする方が多いですね。

鳥集 たとえば公務員とかですか。

岩波 実は公務員は、あまり静かな仕事じゃないんですよ。公務員に限らずいわゆる総合職的な事務職というのは、たくさんの人から情報が次々に入ってきて、仕事が重なりますよね。それはASDの人もADHDの人も苦手なんです。自分のペースでじっとデータを分析するようなことはわりと向いてるんですが、常に対応を求められるような仕事は得意ではないですね。

鳥集 なるほど、並行して仕事を進めるのは苦手なんですね。社会に出ると、一つのことだけに集中して取り組める仕事は、現実にはそんなにありません。複数のタスク(課題)をこなさねばならないのが一般的なので、それが苦手な人は大変ですね。だとしたら、ASDの人に向いている仕事とは、具体的にはどんな職業なんでしょう。

岩波 たとえばある患者さんは、気象庁関係にずっといました。天気のことばかり自分で勉強して、いろんなデータを出していました。「前から変わった人だと思われてました」と言って、定年になってから病院に来られたんです。

鳥集 アメダス(地域気象観測システム)で集まってきた各地の雨量や風速といったデータを、ひたすら集計・分析するような仕事ですか。

岩波 そのようです。データを集計したり、予測したりとか。それから、逆に向いてないほうですけど、一般のメーカーに入って、営業事務を担当させられていたASDの人がいました。しかし、やはり仕事になじめなくなって、子会社で単純な仕事だけやらせてもらっていたそうです。その人は、今はサッカーマニアだと言っていました。ずっと何かのマニアで、小さい頃は電車マニア。収集癖もあって、ハマったものを部屋が溢れるほど集めていたそうです。

鳥集 確かに、特定のものをとにかく集めて、整理するのが好きな人がおられます。

岩波 だけどやっぱり人間関係は希薄で、一緒に食事に行くような友達もいない。母親と二人暮らしで、社会的には孤立していました。