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クリエイティブな職業に多いADHD

鳥集 一方のADHDの方はどういう職業が向いているんでしょうか。

岩波 全員ではありませんが、患者さんの中ではアート関係など創造性の高い人が多いです。子供の頃から絵を描くのが好きで美大に行って、大学は中退したけれどイラストレーターをやっている人、テレビ局のバラエティー作家が二人、広告代理店のコピーライター、ライトノベルのライターさんもいます。そうそう、睡眠薬の依存で入院していた世界的な音楽家の方もADHDでした。やはり、普通の方とは違う発想力があります。

鳥集 どうしてADHDの人は、そのような創造性が高いんでしょうか。

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岩波 心理学の分野に「マインド・ワンダリング(mind wandering)」という言葉があります。ワンダリングとは「さまよう」という意味です。何かをしていても、違うことを思いついて、考えがどんどんそれていく。これって、ADHDそのものなんです。心理学の先生たちの研究だと、マインド・ワンダリングが創造性のさまざまな指標と密接に結びついているんだそうです。

鳥集 なんかイメージとしては太陽の塔をつくった、芸術家の岡本太郎さんみたいな感じでしょうか。創造性があふれて、頭が爆発してしまう(笑)。歴史上の人物がADHDにあたるとか、ASDにあたるとかっていう診断は難しいですか?

岩波 最近調べた人では、有名なネンキンの研究者、明治時代から昭和にかけて活躍した。

鳥集 ネンキン? 年金? あ、粘菌! 18ヵ国語を操ったと言われる知の巨人・南方熊楠のことですね。

岩波 そうです。あの方は伝記を読むとADHDのようですね。昔の百科事典『和漢三才図会』を全部暗記して、それを家に帰って記憶だけで写し取る一方で、興味の向かないことは全く勉強しない。ASDぽいところもあります。それから、明治・大正期のアナキスト大杉栄と、内縁の妻だった婦人解放運動家の伊藤野枝。両方ともADHDらしく、似たタイプです。伊藤野枝なんか東京に出て義理のおじさんの家に行くために倒れるほど勉強して、飛び級で上野高等女学校に入ったというのです。大杉さんもそうですが、かなり思いのまま衝動的に動くみたいな。

鳥集 そういうADHDっぽい人たちの衝動性が、社会を変えたいというパッションに結びついたんでしょうか。

岩波 本当は革命なんてどうでもよかったんじゃないですか(笑)。たまたまそこに、自分のパッションを向けたということなんでしょう。面白いことや刺激を求める傾向というのかな、「センセーション・シーキング(sensation seeking)」という言葉をよく使うんですけど、それの表れなんでしょう。大杉さんも突然ヨーロッパに行きますよね。そのために、それほど仲がよかったわけでもない小説家の有島武郎の家に行って、お金ないから貸せとかいって(笑)。有島さんも貸すところがすごいですけど。

軍事の天才はアスペルガー症候群?

鳥集 そういう歴史に名を残した人たちを詳しく調べると、ADHDやASD的な気質が見えることも多そうですね。

岩波 そうです。あとはよく言われているのが、ナチスドイツに降伏した時代のフランスの解放運動の指導者で、戦後、フランス共和国の大統領になったシャルル・ド・ゴールが、昔からアスペルガー症候群だといわれています。それから日本で言うと、幕末の戊辰戦争で新政府軍を勝利に導いた長州藩の医師で兵学者の大村益次郎。どちらも軍事の天才です。

鳥集 こうした軍師になる資質の人たちは、自分が指揮する戦術によって何万人死ぬことがわかっていても、勝利のためならやむを得ないと考えたかもしれませんね。

岩波 ある意味、人を人と思わないというか。何人殺されても別に全然気にしないみたいなところがあったんじゃないでしょうか。

鳥集 現代でも、そんな人たちが国の指導者になったらと考えると……ちょっと怖いなぁ。

♯2 「天才肌の発達障害は本当に医学部に向いているのか」
♯3 「東大医学部卒の超エリートを待ち受ける「現実」とは?」に続く

岩波 明(いわなみ・あきら)
昭和大学医学部精神医学講座主任教授(医学博士)。1959年、神奈川県生まれ。東京大学医学部卒業後、都立松沢病院などで臨床経験を積む。東京大学医学部精神医学教室助教授、埼玉医科大学精神医学教室准教授などを経て、2012年より現職。2015年より同大学附属烏山病院長を兼任、ADHD専門外来を担当。精神疾患の認知機能障害、発達障害の臨床研究などを主な研究分野としている。著書に『大人のADHD もっとも身近な発達障害』(ちくま新書)など。

鳥集 徹(とりだまり・とおる)
ジャーナリスト。1966年兵庫県生まれ。同志社大学大学院修士課程修了(新聞学)。会社員、出版社勤務を経て、2004年から医療問題を中心にジャーナリストとして活動。タミフル寄付金問題やインプラント使い回し疑惑等でスクープを発表してきた。15年に著書『新薬の罠 子宮頸がん、認知症…10兆円の闇』(文藝春秋)で第4回日本医学ジャーナリスト協会賞大賞を受賞。

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