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「オレはバカじゃないか」余命は短くて10年…経済評論家・岸博幸が振り返る、がんを宣告された日の医師との“押し問答”

『余命10年 多発性骨髄腫になって、やめたこと・始めたこと。』より#1

2024/06/29
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 多発性骨髄腫。耳慣れない病名ではあったものの、骨髄腫という名称からがんの一種だろうと推測はできた。もちろん、それを聞いてかなりショックではあったが、同時に納得感みたいなものも心に去来した。

「なんだ、疲れやすかったり顔色が悪かったりしたのは、年のせいじゃなくて病気だったからなのか」と、腑に落ちたのだ。

 こう見えて僕は子供の頃から丈夫で、60歳になるまで、これといった大病をしたことがない。それどころか、ロッククライミングに40歳頃まで熱中していてハードなトレーニングを続けていたし、50歳頃からは、仕事で関わるようになった総合格闘技の影響でキックボクシングまで始めたので、体力に関しては、同年代の誰にも負けない自信があった。

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 だから、去年の夏頃から、地方でのテレビ出演や講演を終え、帰りの新幹線や飛行機に乗るや否や寝落ちしてしまったりと、それまでとは違う自分に対して、「年には勝てないのか」と感じていた。

 テレビ出演や講演は、たとえ短時間でも、ものすごい集中力が必要である。だから、60歳になった自分が疲れてしまうのも当然のことかもしれない。そう思いつつも、戸惑いを抱いていたのだ。そんな時に、「年のせい」ではなく「病気のせい」だったことがわかり、なんだかすっきりしたのだ。

 その5日後、あらためて骨髄穿刺(骨髄穿刺針を用いて骨に穴をあけて、中の骨髄液を注射器で吸引する検査法。これが壮絶に痛い!)で骨髄を調べた結果、僕の病気は、多発性骨髄腫であることが確定した。

『余命10年 多発性骨髄腫になって、やめたこと・始めたこと。』(幻冬舎)

男性の罹患率は10万人に6.6人という「多発性骨髄腫」とは

 ここで多発性骨髄腫という病気について、少し説明をしておこう。

 多発性骨髄腫は、血液中に存在し、免疫を司っている形質細胞が悪性化する血液のがんの一種で、男性の罹患率は10万人に6.6人とされる珍しい疾患だ。初期には自覚症状がほとんど出ないため、血液検査などで見つかることが少なくないという。病状が進むと、腎臓の機能低下や貧血などが起こり、貧血が進行すると、動悸や息切れ、めまい、全身倦怠感などの症状が出てくるらしい。

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