ときには誹謗中傷や脅迫にまで過激化することも…。近年とかく炎上しがちな「田舎」に住む地元民と移住者のコミュニケーション。同じ地域に住む人間同士でなぜ争うのか? 両者を隔てる問題の原因を、徳島大学大学院教授の田口太郎氏の新刊『「地域おこし協力隊」は何をおこしているのか? 移住の理想と現実』(星海社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
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田舎VS都市
振り返ると、2023年は「田舎」そして「地域おこし協力隊」炎上の年となってしまったと言えるかもしれません。
年初には福井県池田町の広報誌で移住者へ向けた提言として出された「池田暮らしの七か条」の内容に「上から目線」などと各所から批判が集まりました。七か条には「都会風を吹かさないよう心がけてください」「品定めされることは自然です」といった文言が並び、テレビ番組などでも多く取り上げられたので覚えている方も多いかもしれません。
ほどなくして、今度は動画共有サイトに投稿された1本の動画が話題に。田舎への移住者による「【移住失敗】色々ありすぎて引っ越すことになりました#31」と題された動画は再生回数が600万回を超え、田舎に関心のある層を超えて広く一般に広がりました。福井県池田町と同じように「閉鎖的な田舎」「古い価値観の田舎」といった批判が各所であがり、大きな話題となったのです。
この騒動が落ち着いたか、といったタイミングで、今度は移住者が経営するカフェが突然に立ち退きを要求された経緯がSNSで大きく拡散。この件では誹謗中傷を超えて、誘拐予告や爆破予告が届き、警察沙汰にまでなってしまいました。
これまでも田舎の閉鎖性については言及されてきましたが、SNSという高速で拡散されるツールの普及によって、これまでこうした話題にあまり関心を持っていなかった人びとまで広まったことで、一部の過激な行動を取る人たちにまで伝わり、その後の誹謗中傷、脅迫などにつながったと言えるでしょう。
「2023年は『炎上の年』となってしまった」と言いましたが、私は2023年に限って多くトラブルが発生したとは思っていません。2023年にこれまでもあったようなトラブルが特に広く拡散されたという理解が現実的なところではないでしょうか。
私は研究のため多くの町や村に足を運び、実態を見てきました。過去にも地域住民と移住者のトラブルはあったものの、当事者には発信するすべがなく、泣き寝入りせざるを得なかったことも多くありました。
また、SNSなどでの拡散は被害者による加害者の告発の形態を取りがちですが、一方の側からのみの発信であるため、その是非の判断は難しいものです。農村社会に都市部から人が入るということは、異なった生活背景を持つ人びとが出会う機会となり、双方にとって小さくない変化をもたらします。
このようなトラブルも「田舎VS都市」として捉えられがちですが、そもそも「田舎」とはどういう地域なのか、という定義もはっきりしない中で、人口減少が進む農山村を「田舎」として一括りにまとめてしまい、地域それぞれの事情には関心が払われない中で「田舎とはこういうところ」という前提で拡散されているように感じます。こうした事態の数々は、まさに「炎上」でした。