日本だけで移住者の問題が起きている、と認識していらっしゃる方もいるかもしれません。そんな読者の方々に観ていただきたい映画があります。2022年に第35回東京国際映画祭のグランプリを受賞し、2023年に日本でも公開されたスペイン人監督による映画、邦題『理想郷』。作品のテーマは移住者と地域住民の軋轢であり、実際にスペインで起こった事件をもとにした映画です。
私は映画のパンフレット用に原稿を依頼されて映画を観てみたのですが、日本でも大いに起こりうる事象を、迫力をもって伝える名作であると感じました。作品では、外からある地域にやってきた移住者と地域にいる人びとのちょっとした行き違いが大きくなり、凄惨な事件へと発展していきます。ここでも日本の炎上トラブルと同じく、永く地域に暮らす人びとの感覚と、理想を求めてやってきた移住者の感覚のズレがそもそもの引き金となっています。
移住者の問題は世界中どこででも起こりうることが、この映画を観るとおわかりいただけると思います。軋轢はときに、炎上以上の厄災をもたらすことさえあるのです。
なぜ移住者と地域住民は揉めるのか?
こうした移住者と地域住民のズレの原点は、移住者はさまざまな選択肢の中からその地を“選択”しているのに対して、地元の住民は地域を“選択できずに”住んでいるところにあります。前者はポジティブな印象を持っているのに対して、後者は選択する機会がなく比較対象も少ないためどうしてもネガティブな印象を持ちがちです。ここに小さなズレの発端があるのです。
ポジティブに地域を見ている側は地域の資源に可能性を見出し、それを利用することで豊かになっていくのに対して、ネガティブに見ている側はそれ故に活路を見出しにくい。それぞれが自身の地域への評価を強く自認し、互いの地域に対する感覚の違いを理解していないために不信感へとつながってしまいます。お互いにわかったつもりでいるものの相互理解が不足している、ということから生まれる軋轢が、世界中で起きているのです。
日本だから、特定の地域だから、問題が起きるのだという見方で問題を捉えてしまうと、事態を改善することは難しくなります。移住者と地域住民のあいだには問題が起きる可能性があるのだと認識した上で、どう取り組むのかが大切です。