これはもはや、僧侶が修行する鎖場だ…
気になるのは、トンネル内を通るワイヤーの存在だ。
写真を見比べてもらえるとわかるとおり、これは吊り橋を支えている主要なケーブルなのだが、橋とトンネルの間にケーブルを固定するスペースがなく、トンネル内を通しているのだと思われる。これまで日本中の多くの道を巡ってきたが、これは非常に珍しい。
ワイヤーの先はいったいどうなっているのか。気になって仕方がない。
視線で追いながらトンネルを出る。すると、気になっていたワイヤーの終点はトンネルの直径よりも長いパイプに結び付けて固定されていた。
吊り橋のケーブルを固定するには、巨大なコンクリートの塊、アンカーブロックを用いるのが一般的。にもかかわらず、パイプで固定するというのは、衝撃的だった。限られた条件の中で、創意工夫をこらした結果なのだろう。
トンネルを過ぎると、聖神社の鳥居が現れた。
ここからさらに山を登るのだが、状況は一段と厳しくなってくる。上り坂がこれまで以上にきつくなり、用意されているのは参拝者が掴みながら登るための鎖。
これはもはや、僧侶が修行する鎖場だ……。
そして、最後に待ち受けているのは階段とは呼べない急角度の梯子。バランスを崩して崖下に転落すると、間違いなく助からない高さだ。
どんどん登り、最後の難関を乗り越えると、ついに聖神社に到達した。寄り道しながらとはいえ、出発から2時間が経っていた。
お堂の上まで岩がせり出し、圧倒的な存在感を放つ。実際に訪れてみると、改めてどうやってここにお堂を建てたのか、とても不思議な気持ちになる。
なお、お堂のドアは施錠されておらず、自由に参拝することができたので、お賽銭を入れて、早速お参りする。祈ることはただ一つ。
「無事に帰れますように……」――。
◆◆◆
それにしても、いったいなぜこんな難所に神社が建造されたのか……。その理由に迫ってみると、関係者から意外な経緯を聞くことができた。