新井さんのパチンコ好きは支店内でも有名。駅前にあるパチンコ店の常連で、開店前に並んでいる姿を、駅から通勤してくる同僚に何度も目撃されている。パチンコ好きは本人も公言しており、増額の審査で来店したときも、女性社員に「昨日も8万やられちまったけど、明日は7のつく日の新台入れ替えだから負ける理由がない。だからその前に10万増額したい」と堂々としたものだ。
われわれ業者の本音を言えば、金利分だけ払い続けてもらうのが望ましい。一括返済されては、貸付残高がなくなる=利息収入も消えるからである。それでも払わないよりはマシ。
翌日、店頭で待っていると、新井さん本人が奥さんとともに来店。入ってきたときの様子も、以前、延滞中のカウンセリングで店頭に呼びつけたときとは雲泥の差だ。あのときは姿勢を低くしたまま小走りで席に着き、ハンカチで汗を拭きながらこちらの目も見ずに縮こまり、「はい、はい、すいません」の連呼だったのが、今日はゆったり堂々としたものである。
デックU支店では、お客が席に着くとドリンクメニューを差し出し、飲み物を提供するのだが、延滞客の場合、そんなものをゆっくり見て選ぶ余裕はない。ところが、今日の新井さんは違う。ドリンクメニューを眺めながら、「ど~れ、今日は寒いから温かいものをいただこうかなぁ」とホットコーヒーを注文。
そして、53万円をカウンターに置き、「数えてみて」と差し出す。お金を数え、お釣りを渡し、完済処理を済ませた私が尋ねる。
「新井さん、契約どうしますか。解約にしますか、それともまたいつでも使えるように完済処理だけして契約はそのままにしておきますか?」
「もう使うことはないと思うけど、解約しちゃうとキミらの成績にも響くだろうから、そのままでいいよ」
「ありがとうございます」
私は初めて新井さんに頭を下げることとなった。
いきなり借金返済できた理由
完済の場合はお客にその理由を聞くことになっている。
「今回の完済というのは、当社で何か不都合がございましたか?」
「不都合どころじゃないよ。追い込まれて散々な目に遭ったからな。まぁ、それは冗談だけど」
実際のところ本音だろうが、そんなことを言いながらも目は笑っている。人はお金に余裕ができると心にも余裕が出てくるのだ。今回の完済が、他社で一本化したからかどうかは確認しておきたいところでもあった。
「今回のお金、会社からのボーナスとかですか?」
書類を整理しながら、サラッと聞いてみると、
「いや、みにろとで……」
新井さんがそう言うやいなや、隣にいる奥さんがさえぎった。
「お父さん! 何言ってるの!」