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 新井さんも口を滑らせたと思ったのか、「いや、これから他社へも返しに行かなくちゃいけないからね。それじゃ、お世話さまだったね」などと早々に話を切り上げて、出て行った。

「みにろとで」……新井さんが口にした暗号のような言葉を反芻する。みにろと、ミニろと、ミニロト……きっとミニロトだ。

写真はイメージ ©getty

 ミニロトなら私もたまにやるが、2等だとせいぜい十数万円程度のはず。それなら多重債務者である新井さんがすべての貸付を完済できるはずがない。となれば当たったのは1等の1000万円超ということになる。

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「ふだんの行ないなんか関係ねえな」

 新井さんの話を同僚にすると、店内が大騒ぎになった。

「高額当選者なんて身近で初めて聞いたな」「でも本当に当たるもんなんだな」「ふだんの行ないなんか関係ねえな。あんなパチンカスの欲望まみれの人間が当たっちゃうんだからさ」

 たしかに私もそう思う。因果応報という言葉があるが、今回の件はどう見ても「因」と「果」のバランスがおかしすぎる。やむをえない事情でお金を借り、生活費を切り詰めて仕事を掛け持ちしながら必死に返済している人もいれば、朝から晩までパチンコに明け暮れ、延滞しても知らんぷりだった新井さんがミニロトで救われるという結末。

 ただ、新井さんは私の前で「ミニロトが当たった」などと口を滑らせてしまう憎めないキャラクターでもある。神さまはそういう正直さに味方したのか。

 でも、新井さんは泡銭をすぐ使い切るだろう。そして、契約は残したままなので、デックのカードはいつでも使える。1~2年、いや半年もすれば、カードからお金を引き出している可能性は大きい。新井さんはきっとここへ戻ってくる。