「今まで悪かったね。都合ついたんで、まとめて払いに行くよ。明日行くんで、明日までの利息含めた支払い総額、教えてもらえる?」――パチンコがやめられず数十万の借金を抱えてしまった、新井さん。ところが、そんな彼からいきなり「一括返済」の提案が。返済が何度も遅れるほどルーズだった人間に何が? 消費者金融業界で20年間働き続けた、加原井末路氏の新刊『消費者金融ずるずる日記』(三五館シンシャ)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)
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貸付金49万8000円の新井さん
毎日が、延滞客の管理と督促。こうした日々をすごしているとふと思うことがある。
「この債務者たちは、永遠に借りては返してを繰り返す人生を送っていくのだろうか? そして、私も来年の今ごろも、再来年、5年後、10年後も、今日と同じことをしているのだろうか?」
そんな気の迷いはすぐに日常の業務の中にかき消されていく。
朝8時半、出社するとすぐにパソコンの端末を叩き、長期延滞者をリストアップする。本日、私が架電するのは2カ月オーバーの延滞者リストだ。このクラスになると5件に1件電話に出ればよいほうだ。ダメ元でスピーカーにして架電する。
「は~い。もしも~し」
延滞者らしからぬ軽快な口調。このレベルの延滞者たちはたいていどんよりした口調のため、思わず違う人にかけ間違えたのかと、ナンバーディスプレイをリストと照合して確認する。「貸付金49万8000円、新井さん」、やはり間違いない。新井さんは、1~2カ月遅れの常連。電話をしても平気でパチンコ屋の音がバックに聞こえる状況で、「今、確変中だからかけ直す」と言ったきりなしのつぶてだったり、「支払いに行ったけど遅い時間でATMが閉まってた」などと子どもじみたウソを平気でつく人だ。
「『は~い』じゃないよ。支払いどうなってるの? 2カ月も溜めておいて、連絡もなしじゃ、一括返済の請求を出すよ」
脅し文句で一発かますと、新井さんはあっさり「いいよ~」と言う。
可哀想に、借金取りに追い詰められて、とうとう頭でもおかしくなったのか。
そんなことを思っていると、「今まで悪かったね。都合ついたんで、まとめて払いに行くよ。明日行くんで、明日までの利息含めた支払い総額、教えてもらえる?」
私は慌てて電卓を叩く。
新井さんの貸付残高は元金が49万8000円。年利29.2%だから49万8000円×29.2%として、年で14万5416円。これを日割りで計算すると14万5416円÷365日で1日当たり398円の利息。前回返済日から60日経っているので、本日までの利息は398円×60日=2万3880円。元金49万8000円+利息2万3880円=52万1880円。
「52万1880円です」と敬語でお伝えし、受話器を置いた。
あのパチンコ狂いの新井さんが一括返済? それを隣で聞いていた竹原さんも紙パックのマミーをぐびりと飲んで、「あのオヤジが一括返済? どこかの会社でまとめたんじゃねえのか?」。周囲もざわつきだす。