展示室の大きな部分を占めるテーブルも、手づくりである。こまかい木製ブロックを、約10万片も使って造形した。うねるような形態は、どうやら川を表しているようだ。
展示室いっぱいに、大きな水の流れをつくろうとしたのはなぜだったか。
「もともと構想が先にあったわけではなくて、近所の川原で石を拾ったことがきっかけになりました。あるときかわいい石を見つけたので、持ち帰って家に置いてみると、無理のない素直な気持ちになれたんです。私がこの石を好きだということは、だれかほかの人の基準が入っているわけじゃない純粋な思いだと気づいて、すごく安心できたというか」
美術史や理論から導き出した「美」のものさしに照らすのではなく、自分の「好き」にまっすぐ向き合えたうれしさがあったのだ。
「そのあと繰り返し川へ石を拾いに行くようになりました。冬の寒い川に膝まで浸かって石を探していると、『ああ、いま生きてるなぁ!』と実感できた。そのとき思ったんです、自分の川をつくりたいなって」
そこから木製ブロックで川をつくり、川面に日々のささやかな思い出を含んだ小さいものを並べる、という作品の構想が浮かんできた。
「ひとつずつのものも全体もそうですが、この川をつくっているとき私は、新たな生命を育んでいるような気持ちになっていましたね」
だからだろうか。加藤が生み出すインスタレーションのなかにいると、観る側は、大いなる自然に包まれているように感じられるのだ。
18年間、真剣に遊び続けた成果がここに
他に似たもののない独自の境地にいる加藤美佳だが、キャリアをふりかえれば、作風は大きく転回してきたのがわかる。
加藤は愛知県立芸術大学大学院在学中に、早くも初個展を開きデビューを飾った。そのころ主に手がけていたのは、人物像を大きく描く油彩画だった。
ただし制作手法は、当時から風変わりだった。まず自作の粘土人形をつくり込み、その姿を撮影し、上がった写真を見ながら油彩画に仕上げていく。ていねいな筆致を重ねて描かれる人物像は、さほど写実的ではないのに生々しさをまとっていた。