伝統文化を目にする機会が増えるからか、新年になると「和の美」を堪能したい気分になる。

 この年初なら、千葉市美術館の展示がうってつけ。品格漂う浮世絵が並ぶ「サムライ、浮世絵師になる! 鳥文斎栄之展」だ。

歌麿や北斎に「上品さ」で対抗

 鳥文斎栄之(ちょうぶんさい・えいし)とはあまり馴染みのない名かもしれないが、18世紀後半から19世紀初頭にかけて高い人気と実力を誇った浮世絵師だ。作品に触れる前に、そもそも浮世絵って何だっけ? という点を整理しておこう。

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 浮世絵は、江戸時代の都市に生きた大衆のニーズに応えるべく、制作された絵画作品のこと。色鮮やかな版画をまっさきに思い浮かべる向きも多かろうが、それだけではない。筆で紙や絹に直接描いた肉筆画と呼ばれるものも浮世絵だ。

 浮世が「現世」「いまの世の中」を指す言葉であることからもわかるように、浮世絵は絵の題材を身近なところから採る。それ以前の絵が時の権力者や神話・歴史上の出来事などを対象とするのに対し、当時の一般の人たちが織りなす風俗を描いた。

 つまり浮世絵の画面には、江戸庶民が見たいと欲したもの、心動かされていたものが落とし込んである。彼らの好みや心情を追体験できるところがおもしろいのだ。

 では今展の主役・鳥文斎栄之なる浮世絵師は、どんな作品を展開したのか。彼が生きたのは浮世絵の全盛期で、美人画で鳴らした喜多川歌麿や、「冨嶽三十六景」の葛飾北斎ら浮世絵界のビッグネームと同時代人である。否応なく比較されやりづらかったかと思えば、そうでもない。鳥文斎栄之は名だたる大御所たちと、人気・実力ともに拮抗していた。歌麿や北斎にはない明確な強みも持っており、互角以上に渡り合っていたフシすらある。

 鳥文斎栄之が有していた武器、それはどの画面にもそこはかとなく漂う「品格」だ。得意とした美人画を見てみよう。女性の顔面を大アップで描く大首絵は歌麿の代名詞だったので同じ構図は避け、栄之は全身立像や全身座像を多く制作した。《美人立姿図》に見られるように、すらりとした長身の女性たちの、緊張感を保った姿勢がまずはいい。着こなしは襟元をピンと立たせて上品そのものだ。

鳥文斎栄之《美人立姿図》1789-1801 個人蔵

 着物そのものも、上質で洗練されたものばかりで目を奪われる。《風俗略六芸 琴》《風流略六芸 画》《風俗略六芸 茶湯》などでそれらはじっくり確認できる。作品にぐっと目を近づけて眺めれば、着物の柄もかわいらしくて美しい。版画にしろ肉筆にしても、そうした柄の一つひとつが細やかに表現してありみごとだ。

鳥文斎栄之《風俗略六芸 琴》1793-94頃 慶應義塾蔵 同《風流略六芸 画》1793-94頃 ボストン美術館蔵 同《風俗略六芸 茶湯》1793-94頃 千葉市美術館蔵