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アメリカで暮らす日本人だからこその視点

 書きながら、常に葛藤していました。「アメリカの高校生たちが原爆投下の是非を議論する。原爆投下を肯定する立場から意見を述べる生徒も登場する」──こんな作品を書いたら、日本国内で激しい非難を浴びるだろうな、と。それでも、書かずにはいられなかったのです。世界最大の軍事国家・アメリカで暮らす日本人の私だからこそ、書けることがあるはずだ、と。日本は世界で唯一の被爆国。だから平和を祈りましょう、という決まり切った論調に、毎年の夏、違和感を覚えているのは、アメリカ在住の私だけではないはずだ、とも思っていました。広島と長崎には、なぜ、原爆が落とされたのか。落とされるまでに、日本軍は、どこで、どんな戦争をやっていたのか。もしも原爆が落とされなかったら、南からはアメリカ軍が上陸し、北からはソ連に攻められて、一億総玉砕が決行されていたかもしれないわけです。そういうことを含めて原爆投下を考えてこそ「日本は世界で唯一の被爆国。平和を祈りましょう」が生きてくるのではないでしょうか。

毎年の初夏、カナダから渡ってきて、子育てをするカナダグースたち。
子育ては、夫婦で協力し合っておこなっています。(写真:著者撮影)

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 書き上げたときには、すっかり覚悟が決まっていました。腹をくくりました、と書くべきかもしれません。どんなに激しい非難を浴びたとしても、私は後悔しないだろう、とも思っていました。事実、後悔はしなくて済みました。むしろこの作品は私に、大いなる自信を与えてくれました。このあたりの経緯については、文春文庫の「あとがき」に詳しく書き綴りましたので、ぜひそちらをお読みください。