近所を散歩中に見かけるウッドストックの風景
私の暮らしているウッドストックでは、アメリカが戦争を始めると、必ず、反戦運動家たちが集まって「平和的な反戦活動」を実践します。幼い子どもからお年寄りまでが広場に集まって「平和のドラム(太鼓)」を打ち鳴らす──というような素朴なイベントが中心ですが、みんなでそれを楽しんでいる、という風でもあります。その一方で、近所を散歩していると「我が家には、ヴェトナム戦争で捕虜になり、まだ帰還できていない息子がいます」というようなメッセージをこめた旗が、庭に立っているのを目にすることもあります。
アメリカは、軍隊や軍人をとても身近に感じる国です。軍人は「国に奉仕する」りっぱな職業として成り立っていますし、人々から尊敬もされています。アメリカで国内線に乗るとき、最初に搭乗するのは軍人です。戦争に反対するアメリカ人はいても、軍隊と軍人を否定する人はいません(私の目には、そう映っています)。そういうアメリカから、私は戦争に反対する一移民として、この作品を書きました。日本人の考える平和と、アメリカ人の考える平和のあいだには、微妙な、あるいは大きな温度差のようなものがあるようにも、感じています。言ってしまえば、日本では平和は祈るもの。アメリカでは行動して勝ち取るもの。そのような違いも、本書から感じ取っていただけたらうれしいです。
最後になりましたが、本書の英文版(“On A Bright Summer Morning” 偕成社刊)を読んでくれたアメリカ人の感想をご紹介しておきます。一アメリカ人の声を聞いてみてください。
It was a fantastic read. I learned many things I didn't know about the bomb. I've always found that I waffle back and forth in a debate that is well prepared. It's hard to make a decision today about something that happened years ago, because you can't replicate conditions, but the arguments in this story seem to hold water - on both sides. What a thought provoking, well written story!"
感動的な一冊でした。原爆について私が知らなかったことをたくさん教えられました。きっちり予習ずみの討論を聞いたことはありますが、いつも自分の意見が行ったり来たりして定まらなかったのを自覚していました。ずっと昔に起きたことについて、現在の目で是非を判断するのは難しいことです。当時の状況を再現することはできませんから。けれど、この作品の中で行われるディベートは、アメリカと日本、どちらの立場の意見も説得力があったと思います。すごく考えを深めさせてくれた、素晴らしい小説でした!(翻訳・文春文庫編集部)
(2024年6月)