旅を円滑に進めるための行程管理が主な仕事だが、旅行中は“何でも屋”に変身する。
生きた心地がしないほどの経験の数々
飛行機などの乗り物、ホテルの誘導とチェックイン、食事の際は飲み物のオーダーを取り、積極的にツアー参加者の写真を撮り、海外では通訳にもなる。そして時には、不満、愚痴、はたまた自慢などの聞き役にもなる。華やかなイメージのCAとは違い、地味な裏方に徹するのだ。
旅行の間、ホテルの自室以外は四六時中、参加者と一緒にいるので、接客業としてはかなり難易度が高い。
その点、森さんはCAとして40年近く接客をしてきたので、お茶の子さいさいかと思われるが?
「いえいえ、CAは飛行機を降りれば業務終了ですが、添乗員は旅が終わるまで仕事が続きます。お客様の安全を守りつつ、最後は全員無事に出発地に帰らないといけません。そのプレッシャーで寿命が縮みそうになることもあります……」
というのも旅先、特に海外ではトラブルに遭遇することも少なくないからだ。
58歳で添乗員の資格を取り(後で詳述)、最初の海外旅行の添乗員デビューの行き先はアメリカ。当然のことながら、数え切れないほど前職で渡米している。しかし、勝手がまるで違う。
「最初から30人ほどと、たくさんのお客様の引率だったのです。アメリカ入国時、パイロットやCAはクルー専用のゲートを通りますが、添乗員であれば、当然一般のお客様と同様のゲートを通ります。入国審査のゲートを私が通った後に、お客様もスムーズに通過してくれればいいですが、遅れてなかなか出て来られない方もいます。振り返ると『え、○○さんがいない!』となるわけです。私はもうゲートに戻れないので、ヒヤヒヤしながらお客様をお待ちしました」
しかも次の飛行機の乗り継ぎがあり、その時間がかなりタイトであれば、飛行機に乗れなくなることもある。森さんもこの時乗り継ぎがあったが、幸いにも搭乗することができたという。
が、ベテランならいざ知らず、デビュー戦でいきなりこの状態では、生きた心地がしなかったとか。もし乗れなければ、添乗員の責任問題になりかねない。