――濱井さんの根深い学歴コンプレックスは、早稲田に入ったことで解消しましたか?
濱井 そうですね。完全に解消したと思います。それに実力合格もうれしかったですが、入学後は感動することが多くありました。
早稲田は「苦節〇年の多浪」で入った人や留年者も多いので、学生の年齢層が広いんですよ。だから私のような27歳の大学1年生がいても、誰も否定しない。現役合格の同級生に「9浪で合格したんだ」と話すと、「そんな長い間、めげずによく頑張ったね」と言われました。それまで私の周囲には、勉強することや浪人をバカにする人しかいなかったので驚きました。
――反応が全く違った。
濱井 早稲田のキャンパスに立っただけで「27歳の自分もいろんなことができそうだ」とワクワクしたんです。9年間頑張ってよかったと心から思えました。
早稲田で初めて味わった「承認欲求が満たされる感覚」
――浪人専門家「9浪はまい」としての活動は、早稲田大学のときに始めたのでしょうか。
濱井 バンカラジオという、早稲田の学生がつくるYouTubeに出たのがきっかけです。そこで「9浪」が人に与えるインパクトを知りました(笑)。
あと、自分の失敗勉強法なども含め、これまでの努力をわかってもらえるのがとてもうれしくて。承認欲求が満たされる感覚を初めて味わって、やみつきになりました。
――話を聞いてもらえる、という感じでしょうか。
濱井 まさにそうです。早稲田には、小さい頃から「勉強を頑張ろう」「努力はいいこと」という環境にいた人が多い。私は正反対の環境で「勉強するのはカッコ悪い」という人たちに囲まれていたので、早稲田に入ってようやく自分が正しかったとわかり、救われました。
Xでも発信を始めたら「自分は機能不全家族で進学を諦めた」「勉強は大事と気づくのが遅かった」など、似た環境で育った方から連絡をもらうことが増えました。私も大学進学はまったく視野になかったのが、偶然とラッキーが重なり早稲田に入った。だから、地方で教育格差に苦しむ人を見過ごせないんです。
――でも、濱井さんのXは自虐や学歴厨ネタも多く、ひろゆき氏に「はまいは『早稲田に受かった俺すごい』だけ。話が高校生レベル」と言われたことも。ご自身ではどう思っていますか?
濱井 悔しいですがおっしゃる通りです。私はまだ教育学部を出ただけで、教育格差や貧困家庭について発信しても、説得力がないのはわかっています。だからこそ、大学院でもっと勉強したいと思っているんです。
――まだ受験は続く。
濱井 はい。教育格差と社会について本格的に研究したいと思い、大学院を目指すことにしました。ちゃんと勉強して社会的信用がつけば、できることも増える。昨年は東大大学院の教育学研究科を受けて、一次の筆記は通過しましたが、二次面接で惨敗しました。今年こそ合格を目指し、東大以外に一橋や早稲田の院も受けるつもりで、今は研究計画書を作成中です。
――さらに学歴の高みを目指すんですね。濱井さんの最終目標は何でしょうか。
濱井 「生まれた環境で人生が決まってしまう」という状況を撲滅したいんです。そこが、自分が一番憤りを感じて悔しかったところなので。幸い私は抜け出すことができましたが、この社会にはまだ同じような人が大勢いる。その人たちが、自分の頑張り次第で人生の行き先を選べる世の中に変えたいと思います。
「東京に行くなんて、私立に行くなんてありえない」という呪縛
――かつての濱井さんと同じような子どもがいたら、どんな言葉をかけますか。
濱井 ……たぶん、私が何か言うよりも、相手の話を聞くと思います。その子にとって私は“よく知らない大人”のひとりだと思うんですよ。だから、まず対等な関係で話を聞くことで「この人はもしかすると、周りの大人とは違うかも」と思ってもらいたい。
早稲田の4年時に教育実習で地元丹波の中学校に行ったとき、子どもにどこの大学か聞かれたんですね。「東京の早稲田大学です」と答えたとき、私は内心「すごい」という言葉を期待していました。でも返ってきたのは「お金、大丈夫ですか?」でした。それがいまだに忘れられません。
――今も丹波には「東京の私大に通うとお金がかかるから自分には無理だ」と思う子がいる。
濱井 その子には、おそらく周りの環境が「東京に行くなんて、私立に行くなんてありえない」という呪縛をかけているのではと思いました。その子との会話がそこで終わってしまったのがひっかかっていて。もう一度会えたら「諦めることはないよ、こんな自分でも早稲田に行けたんだから。僕はやり方が下手で9年もかかったけど、君たちはもっとスマートに夢を叶えられるはずだよ」と伝えたいです。
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