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パリ五輪直前! 「集金と分配」のシステムと化した五輪への絶望。スポーツ小説の名手がオリンピックの意義を問う

『オリンピックを殺す日』(堂場瞬一 著)

source : 文春文庫

genre : エンタメ, 読書, スポーツ

note

「この日記の中身は批判ばかりです。どうして、誰もきちんと検証しないんだろう、という疑問を持ちつつ、『自ら改善できない事情』を理解できる心情もありました。

 私もかつては新聞記者でした。取材の対象のである組織で不祥事が起きれば、批判記事も書きますが、他者から悪口を言われれば、ムッとしてしまう。たとえば『最近の警視庁はダメだ!』なんて言われると、『警視庁にはこんな事情もあるんだ』と言い返したくもなる(笑)。取材対象の組織と親しくなりすぎて、取材者もインサイダーになってしまうことが往々にしてあるんですね。

©AFLO

 だったら、自分で『オリンピックの意義を問う小説を書こう』と。エンタメ作家らしく、サスペンスとして描いてみよう、と考えたんです」

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 物語の舞台は、オリンピックから数年後の東京――。

 ある大学教授が、「五輪は集金・分配システムに変化し、意義を失った」という言葉を残して、日本を去った。

 数年後、中堅の新聞記者がある情報を手にする。世界的企業が、新たなスポーツ大会「ザ・ゲーム」を企画している、と。

 大物アスリート数名が関与していることまでは分かるが、誰しもが口を閉ざしていた。

 新聞社でも、オリンピックに対する意見は分かれていた。そんなとき、「メディアとスポーツの関係性」をぶち壊すような、大会プランが明示されていく。

 記者は、この大会を仕掛ける「謎の組織」の正体に迫れるのか――というサスペンス小説だ。