――書籍化を聞いたおじさんの反応はどうでしたか?
かりんこ 「書籍化するんだ、良かったね」くらいの反応でした(笑)。書籍化が決定する前からInstagramでも見ていたそうです。とにかく大物なので、書籍化されたくらいじゃ動じないんですよ。
――いくら「身元が特定されないように配慮する」と言っても、エピソードが衝撃的だから、そこから身元の特定につながる恐れもあるのでは……?
かりんこ その心配はないですね。なぜかって、この話は事件当日に助けてくれたお隣さん、そして病院や警察の方以外にはほぼ話していないんです。だから、事件の関係者たちは私が『鼻フォーク』の著者だとわかると思いますけど、それ以外の人に彼ピッピやおじさんが特定されることはないと思います。
――では、かりんこさんの友人たちは、事件がきっかけで元恋人と別れた、というのを知らないのでしょうか。
かりんこ はい。友人から理由を聞かれたら、「男女っていろいろあるじゃん」と言って済ませています。だからしばらくは、「あんなに良い人と別れるなんてもったいない」と言われました。
「人生は一回きりしかない」と思って前を向く
――入院中は事件のショックで記憶障害に悩まされたそうですが、退院後はいかがでしたか?
かりんこ 記憶障害を経験してから「今ある記憶が、突然消えることがある」「忘れたくないのに、忘れているかどうかすら覚えていないことがある」と知って。それがとてつもなく怖かった時期があります。
その影響か、退院してからしばらくは「記憶をなくす夢」を見ていました。夢の中で、またぶどうを忘れているんですよ。周りのみんなは当たり前に知っているのに、なぜか自分だけ知らないものがある。自分だけぽつんと取り残されるような感覚が不気味で、よくうなされていましたね。
でも、時間が経つにつれて「記憶をなくす恐怖」が薄れていって、それにあわせて夢も見なくなりました。
――DV等の被害にあった場合、何年も何十年も引きずってしまう方も多いですよね。かりんこさんはトラウマなどが残りましたか?
かりんこ うーん、あまり引きずらなかったかもしれません。もちろん、事件やそれに伴う記憶障害は怖かったです。でも、一回きりしかない人生の貴重な時間を、過去に囚われて塞ぎ込んで過ごすのは悲しいなと思ったんですよね。だったら、怖いことを忘れるくらい趣味や仕事に打ち込んだり、新しいことを始めてみたりしたいと考えて、退院直後からアグレッシブに動いていました。